2022年4月、パナソニックは持株会社制として新たなスタートを切った。事業会社の1つが、樋口泰行氏が率いる「パナソニック コネクト」だ。25年ぶりに古巣に出戻った樋口氏は、「変わらなかった」パナソニックでどのように変革を進めてきたのか。そこから浮かび上がる日本企業が勝ち残っていくためのヒントを著書『パナソニック覚醒』から抜粋し、3回にわたってお届けする。初回は、カルチャー&マインド改革について。

45歳で日本ヒューレット・パッカードの社長になり、ダイエー、日本マイクロソフトと経営トップを続け、いずれの会社でも変革に挑み、新しいことを始めて、業績を上向かせてきました。そこでわかった、確実に言えることがひとつあります。どんなに会社を変えようとしても、個人と組織のカルチャーやマインドを正しくしないと、何も始まらないということです。
新しいことを取り入れることが正しいと理論的にはわかる。頭では理解できる。しかし、体が今まで通りに動いてしまう。人間には、そういうところがあるのです。一時的に新しいことを取り入れたとしても、しばらくすると元に戻ってしまう。変わらない方向へ力が働く。
これでは、変革は前には進みません。カルチャーやマインドは、パソコンでいうOS(基本ソフト)です。OSが同じでは、新しいアプリケーションはうまく走らない。組織のカルチャーや一人ひとりのマインドがそのままでは、何も変えられないことを、過去の経験で痛感していたのです。
そこで絶対にやらなければいけないことと決めていたのが、カルチャー&マインド改革でした。経営や働き方を近代化し、個人・組織のパフォーマンスを最大化する。内向き仕事を削減し、業務を付加価値の高い仕事に集中させる。
長い歴史が経験の多様性を失わせる
パナソニックは、100年以上の歴史を持ち、大きな会社になっています。溜まりに溜まったもの、凝り固まっている部分が相当にあると覚悟していました。
売り上げや利益などの前に、何をおいても会社のカルチャー&マインドという要因が大きい。この改革によって、どれだけ生産性が改善されたか、どれだけ利益が上がったかまでは言いにくいですが、間違いなく変化をもたらしたと考えています。
実際、それまで与えられた仕事を適当にこなそうとしていた部署が、仕事の目的を強く意識し、「必死で頑張るぞ」という雰囲気になっていったりもしました。
これはパナソニックに限りませんが、日本の大企業の多くが陥っている状況があると思っています。新卒中心で長く同じメンバーで長期にわたって仕事をしていく。そうなれば、どうしても経験の多様性が欠落していきます。
外の世界、新しい世界を見る機会も減り、視野を広くすることも、視座を高くすることも難しくなっていく可能性が高い。
会社が巨大化し、歴史が長くなると企業としてのパーパス(存在意義)も希薄になります。自分たちは何のために仕事をしているのか、何のために事業をやっているのかが見えなくなっていく。そうなれば、考え方がどんどん内向きになっていきます。
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