日本国内だけで毎年、10億着の洋服が新品のまま廃棄される──。売れ残り製品の大量廃棄はアパレル業界にとって当たり前の慣習だったが、サステナビリティが求められる現在、見直しが急務となっている。そんなアパレル業界が生み出す無駄に半世紀前から警鐘を鳴らし、製造現場のイノベーションで変えていこうと挑戦を続ける人物がいる。2021年3月、日本経済新聞の連載「私の履歴書」でも話題を呼んでいる島精機の島正博会長だ。

 糸を縫い目のない立体的な服として編み上げ、製造段階でロスを出さないホールガーメント横編機をはじめ、数々の技術を開発した島会長は、“紀州のエジソン”と称される。ホールガーメント横編機はグッチやエルメスなど世界の高級ブランドに採用され、ユニクロ製品の製造現場でも活躍。その可能性に改めて注目が集まっている。島会長を長年取材し『アパレルに革命を起こした男』の執筆者でもある梶山寿子氏が島会長の果てない挑戦に迫る。

ユニクロの店舗に展示されたホールガーメント横編機(写真提供=ファーストリテイリング)

 コロナ禍で外出する機会が減り、洋服をあまり買わなくなったという人も多いだろう。筆者もそんな一人だ。先の見えない日々だけに、少しでも出費を抑えたいという事情もある。かねて苦境が伝えられるアパレル企業にとって、こうした状況がさらなる打撃となっているのは間違いない。

 アパレル産業に吹く逆風はそれだけではない。ファストファッションに代表される大量生産・大量廃棄のビジネスモデルが社会問題となっているからだ。

 製造や流通の工程に無駄が多いとされるアパレル産業は、全産業のなかで2番目に多く水を使用し、温暖化ガスの約10%を排出、世界の廃水汚染の20%を占めるといわれる。地球環境に大きな負荷をかけていることに、国連も警鐘を鳴らしているのだ。

 日本国内だけでも年におよそ10億点もの洋服が新品のまま廃棄されるという現状は、「もったいない」を通り越して異常ともいえる。コロナ禍で洋服が売れなくなり、廃棄される製品はますます増えているはずだ。

 SDGs(持続可能な開発目標)を意識した経営が当たり前となるなか、古い衣料を回収して循環させる試みも一部では行われているものの、大量の売れ残り、大量の廃棄を前提としたビジネスのやり方は依然として残っている。アパレル産業は重大な転換期を迎えている。

 では、進むべき道はどの方向か。有力な選択肢の一つが、顧客の好みやサイズに合わせたものを販売するオーダーメード方式ではないか。受注生産ならば、さまざまな色やサイズを大量にストックしておく必要はない。自分仕様の特別な一着だから、ファストファッションのような“使い捨て感覚”ではなく、大事に着てもらえる可能性も高い。オーダーメードが普及すれば、廃棄を大幅に減らせるに違いないのだ。

 ……と、もっともらしく論じてみたが、2021年の現在、こうした発想にさほどの目新しさはない。

 だが、半世紀も前にアパレル産業が内包する壮大な無駄に気づき、その解決策を模索していた人がいたとしたらどうだろう。

 その人の名は島正博。和歌山市に本社を置く世界有数の編機メーカー、島精機製作所の創業者(現会長)である。

島精機の創業者であり、今なお新しい技術開発に意欲を燃やす島正博会長(写真=生田将人)

 1937年の生まれ。貧しさのなか、戦後の混乱期を知恵とバイタリティーで生き抜き、10代から天才発明少年として名をはせる。1962年、24歳のときに島精機製作所を設立。社会の潜在的なニーズに応える製品を次々に開発し、ニットの製造現場、そしてアパレルビジネスに革命を起こしてきた。

 約650件もの特許を個人で取得、〝紀州のエジソン〟との異名を持つが、発明の数よりも「時代の先を読む目」の確かさに驚きを禁じ得ない。

 アパレル産業の大量生産モデルに限界が来ることを、島会長は、早くから見越していたのである。

続きを読む 2/2 アパレルの生産現場では、原料の30%、50%が無駄に

この記事はシリーズ「Books」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。