世代間ギャップをどう埋めるかを意識しつつビジネスを展開すべし
尾原氏:ところで牛窪さん、マーケティングの神様フィリップ・コトラーの最新刊、『Marketing 5.0(以下、マーケティング5.0)』はもう読みましたか?
牛窪氏:はい、尾原さんに薦められて最初の部分は。でも21年2月発売の本書は、全編英語版なので、なかなか前に進みません(笑)。ただコンテンツ(目次)を見て驚いたのは、あのコトラーが、サブタイトルの「Technology for Humanity(人とテクノロジーの共生(の模索))」における重要なバックグラウンド(背景)の一つとして、「ジェネレーションギャップ」を挙げていたことです。
尾原氏:そうなんです。今後5~10年の間に、いわゆるデジタルネーティブなZ世代やその下の「α(アルファ)世代」と呼ばれる人たちが、消費の中心になるのは間違いない。でも彼らに向けた商品やサービスを提供する企業側には、意思決定者として、まだデジタルネーティブではない40、50代以上の上の世代が残っていく。この世代間ギャップをどう埋めるかを意識しつつビジネスを展開すべし、というのがコトラーの主張です。
牛窪氏:そうか、消費者と企業の意思決定者(トップ)は、親子かそれ以上に世代が違うわけですよね。もっとも、Z世代の両親の多くは「団塊ジュニア世代(現40代半ば~後半)」。バブル崩壊前後に青春を過ごし、高級ブランドより「無印良品」に代表されるノンブランドを好み、マーケティング・アナリストの三浦展さんが「シンプル族」と呼ぶように、モノを多く所有したがらない傾向にあった。いまはやりの「ミニマリスト」にも通ずる概念で、その意味では、Z世代とその親世代は、消費の価値観が似ているとも思ったのですが……。
尾原氏:デジタルネーティブかそうでないかという点で、やっぱりZ世代とその親世代の消費行動は大きく違います。でも確かに、この世代の親子は「仲が良い」と言われますよね。
牛窪氏:はい、私は「親ラブ族」と呼んでいます。またZ世代ぐらいからは、ひとりっ子の割合が増え始め、SNSネイティブでもあったので、親だけでなく「じぃじ、ばぁば」とも、スマホを介して頻繁にコミュニケーションしていた男女が多いようです。祖父母の多くは、戦後生まれの団塊世代で、とにかく感覚が若い。お孫さんのジャケットを見て「それ、どこのブランド?」と聞いたり、「一緒にスイーツ食べに行こう」と誘ったりする、といった感覚です。
尾原氏:僕は17年に書いた『モチベーション革命』(NewsPicks Book)という本で、ミレニアル世代を「乾けない世代」と表現しました。かつて高度成長期を支えた団塊世代(現70代前半~半ば)の多くは、モノがなかった時代を経験しているので、「クルマやカラーテレビが欲しい」などと切望した。でもミレニアル世代やその下のZ世代は、「ない状態」をほとんど知らない。
牛窪氏:だから消費に渇望感を抱きにくい(乾けない)、という意味ですね。でもだとすると、Z世代は消費の際に、何を重視するのでしょう。
私はZ世代を、「物欲より『コミュ欲(コミュニケーション欲求)』が強い」世代だと解釈しています。例えば、インスタ映えする「レインボーフード」(虹色のスイーツほか)や、「それどんな味?」と確実に盛り上がる「ガリガリ君」のコーンポタージュ味のアイス(赤城乳業)は、高級フレンチよりツッコミどころ満載で、SNS上でも「ネタ」になる。彼らは和の文化にも関心が高い「先祖返り」世代でもあるので、SNSで「#こけ女(こけし好きな女子)」や「#ぬか女(ぬか漬け好きな女子)」など、和のハッシュタグを付けてつぶやくことで、ニッチな仲間との「ゆるつながり」を満喫する様子も、見てとれます。
尾原氏:確かにZ世代の消費では、牛窪さんが言う「ゆるつながり」にも似た「良好な人間関係」が重要ですが、もう一つ、「意味合い」もキーワードだと思うのです。
例えば、起業家。Z世代の若者たちは、ITバブルの頃に「ヒルズ族」と呼ばれた起業家たちには、どこか違和感を覚えている。半面、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック共同創業者兼会長兼CEO)のような起業家に、強く憧れていたりします。それは彼が、世界を一つにする、人とのつながりやコミュニティー、あるいは慈善活動など、経営において「意味合い」を大切にしているからではないでしょうか。
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