現在、大学生~社会人2、3年目の若者は、「Z世代」(1990年代後半~2000年代序盤生まれ)と呼ばれる。デジタルネーティブよりさらに進んだ「SNSネーティブ」世代でもある彼らは、仕事や消費の現場において、どのような価値観を抱いているのか。2020年12月、『 若者たちのニューノーマル』(日経プレミアシリーズ)を出版したマーケティングライターの牛窪恵氏が、経済学者で東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授と、「これからの働き方」を中心に考える。

牛窪恵氏(以下、牛窪氏):柳川先生は、今なぜ若いZ世代に注目しているのですか?

柳川範之氏(以下、柳川氏):この10年ほど、肌感覚で、若い世代の「変化」を感じてきたからです。

 私は経済学者なので、世界や社会の変化を見据え、その後の制度や政策をどう変えていけばよいかという視点で世の中を見ます。また大学教授という仕事柄、授業で毎年新たな大学生たちとの出逢いもある。上の世代の一部には、「今の若者は積極性に欠ける」と揶揄(やゆ)する方もいますが、むしろ逆で、この10年は“主体的な”若者が増えてきた印象です。

<牛窪恵氏・プロフィル>
マーケティングライター。修士(経営管理学/MBA)。世代・トレンド評論家。立教大学大学院・ビジネスデザイン研究科客員教授。大検合格後、1991年に日本大学芸術学部・映画学科(脚本)を卒業。大手出版社に勤務したのち、2001年にマーケティングを中心に行うインフィニティを設立、同代表取締役。著書やテレビ出演を通じ、「おひとりさま」「草食系(男子)」などの流行語を世に広めた

牛窪氏:私も同意見です。マーケティングの現場で、日々若者たちを対象に「エスノグラフィー(行動観察)」やインタビュー調査を行いますが、5~6年前ごろ、Z世代が大学に進学し始めた頃から、若者のポジティブな変化を感じていました。理由は何だと考えられますか?

柳川氏:一つは、「SNS」をはじめとした、テクノロジーや情報チャネルの急増ではないでしょうか。昭和~平成初期に青春時代を過ごした若者たちは、情報をテレビやラジオ、新聞、雑誌ぐらいでしか得ることができなかった。ですが1990年代半ばからインターネットが普及し、2010年以降はSNSがすっかり浸透しました。情報チャネルが以前の何十倍、何百倍にもなり、自ら日常的に情報を取捨選択せざるを得ない状況に置かれたのです。

牛窪氏:まさに「SNSネーティブ」と呼ばれる所以(ゆえん)ですね。情報チャネルが増えフィルタリングの必然性が高まり、おのずと若者一人ひとりが主体性を身に付けていったと……。

<柳川範之氏・プロフィル>
経済学者。東京大学大学院・経済学研究科教授。独学で大検に合格し、慶応義塾大学経済学部・通信教育課程を卒業。93年、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、NIRA総合研究開発機構・理事、内閣府経済財政諮問会議・民間議員等も務める。著書に『日本成長戦略 40歳定年制』(さくら舎)、『東大教授が教える独学勉強法』(草思社文庫)ほか多数。

柳川氏:情報の「受け手」としてだけでなく、「発信者」としての違いも大きいと見ています。昭和の時代、若者が自分の声を広く公に発信しようと思えば、新聞社や出版社に入社したり作家になったりしなければ難しかった。でも令和の今は、SNSによって、誰もが主体的に情報を発信できる時代です。それだけに、新聞社のような大企業に入社する意義は薄れた。その分、普段から自身の内なる主張に耳を傾け、「発信者」として行動する若者も増えたのではないでしょうか。

牛窪:たくましいですよね。私は近著で、Z世代を「不況免疫」を持った世代と表現しました。90年代後半以降に生まれた彼らは、社会や経済の暗い部分をずっと見て育ってきた。生まれる前にバブル経済は崩壊し、阪神大震災や地下鉄サリン事件(いずれも95年)も起きていました。物心つく頃には、2001年に米国で同時多発テロ事件が、08年秋にはリーマン・ショックが起こり、日本でも11年、東日本大震災や福島原発(東京電力福島第一原子力発電所)の事故など、未曽有の事件や事故、災害が続きます。

柳川氏:なるほど、幼少期から大きな事件や事故、災害に見舞われてきたZ世代だからこそ、不況に免疫があると?

牛窪氏:はい。漠然とした将来不安が強い半面、「世界はいつどうなるか分からない」「時間は有限」と感じて育った世代で、だからこそどこか冷静で、夢を前倒ししようとする印象を受けます。

 『若者たちのニューノーマル』にも書いたのですが、ある若者は「小学生時代に『13歳のハローワーク』(村上龍著、幻冬舎)を読んだ」「でも、そこにあった500以上の既存の仕事に、何一つやりたいものがなかった」、故に今、アーティストのような道を歩んでいると言います。ほかにも、クラウドファンディングで資金を集めて、地元の食材で地域を活性化させようと起業する高校生もいる。彼らは企業規模を大きくしてビッグになろう、というのでなく、小さな「プチハッピー」を求めている印象です。

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