藤巻氏:財政再建を考えるなら、基本的には年間70兆円弱の税収+税外収入でやりくりすることを考える必要があります。これまでは国債を発行して年に100兆円使っていました。つまり借金をして100兆円使うから今の暮らしができていたわけです。今回はコロナ対策もあり、160兆円使うわけですが。

相場氏:日本のように国民皆保険で守られている国は世界では恵まれているほうです。70兆円でやりくりとなると、社会保障なども含めて、相当切り捨てないといけない部分が出てくるでしょう。

藤巻氏:これほどの借金を未来永劫(えいごう)に続けるわけにはいきませんから、今後は今のような豊かな生活は望めません。生活水準を今の6割、7割程度にしないともたないわけです。でも、終身雇用制がなくなり、自己責任になったら皆、必死で勉強しますよ。競争は激しくなるかもしれませんが、そうすれば生産性も上がり、パイも大きくなると思います。競争も厳しくなるということは、今の社会主義的な体制から、働かなければ食べていけない真の資本主義体制に変貌するということです。汗をかいた人ほど、より多く働いた人ほど豊かになる社会です。もちろん、その前提としてセーフティーネットの構築は重要です。

相場氏:確かにそういう面はあるでしょうね。

(写真=北山宏一)
(写真=北山宏一)

財政赤字をためないために財政均衡法の制定を

藤巻氏:日本の一番いけなかったところは、財政赤字を放置して、財政再建を行わなかったことだと思います。なぜ、これほど深刻な赤字に鈍感だったのか。実は、以前は赤字がたまったときには警戒警報を鳴らす設定をしていたのです。

 例えば、赤字国債を発行する場合は1年限りの特例公債法案を毎年国会で通さなければならないというルールがありました。これは先人の知恵であり、警報の役割を果たしていました。それを5年ごとに変更してしまったのです。つまり警報を切ってしまったので、赤字国債を堂々と発行できるようになってしまいました。

 また、市場の警戒警報装置も取り除いてしまったのです。普通だったら、借金がたまっていけば長期金利が上がります。となると、政治家が橋や道路をつくって予算をばらまいて景気を上げようとしても、金利上昇が景気の足を引っ張ります。ここで再び、市場から警報が鳴るわけです。金利が上がれば、赤字が増えますよ、と。言ってみれば、長期国債のマーケットが、あるべき財政支出の額や赤字の額を示してくれていたのです。

 しかし日銀が国債の爆買いを始めたことにより、いくら財政赤字が増えても長期金利が上がらなくなり、ここでも警戒警報が鳴らなくなった。痛みを感じることなく、借金がたまっていったのです。

相場氏:そうした実態をメディアが伝えることも大事です。多くの人に分かってもらうためにしっかり伝える。一方、一般の人も、どういうメディアを読むのかを選び、きちんと情報を得る。誰が正しいことを言っているのかを判断し、もちろん選挙に行って政治家を選ぶことも大切です。

藤巻氏:私はいつも、憲法にスイスやドイツのような財政均衡条項を入れてはどうかと思うのです。憲法を変えるのは難しくても、例えば、仮に新しくスタートする新日本銀行ができたときには財政均衡法をつくる。そして、二度と財政赤字をためないと戒める。そうしないと、また財政危機を繰り返すことになると思うのです。

(了)

【内容紹介】
日本の財政赤字は巨額に膨らみ、世界でも最悪の状態にある。日銀が国債や株式を爆買いすることでごまかしているが、いつ日本売り(株・債券・円の暴落)が起きてもおかしくない。こんなときは一般的な投資法は通用せず、日本売りに備えた資産運用法こそが有効である。そこで本書では基本的な金融マーケットの知識と仕組みを解説し、個人が簡単に活用できる利益のあげ方を指南。景気に関係なく、稼げる方法が身につく!

金融知識は一生モノの武器になる!
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「世界中に火種はあるが、一番ヤバいのは日本だ」!
日本の金融政策に切り込んだ相場英雄氏の最新作『Exit イグジット
書籍、電子書籍同時発売

 月刊誌「言論構想」で経済分野を担当することになった元営業マン・池内貴弘は、地方銀行に勤める元・恋人が東京に営業に来ている事情を調べるうち、地方銀行の苦境、さらにこの国が、もはや「ノー・イグジット(出口なし)」とされる未曽有の危機にあることを知る。

 金融業界の裏と表を知りつくした金融コンサルタント、古賀遼。バブル崩壊後、不良債権を抱える企業や金融機関の延命に暗躍した男は、今なお、政権の中枢から頼られる存在だった。そして池内の元・恋人もまた、特殊な事情を抱えて古賀の元を訪ねていた。

 やがて出会う古賀と池内。日本経済が抱える闇について、池内に明かす古賀。一方で、古賀が伝説のフィクサーだと知った池内は、古賀の取材に動く。そんな中、日銀内の不倫スキャンダルが報道される。その報道はやがて、金融業界はもとより政界をも巻き込んでいく。

 テレビ・新聞を見ているだけでは分からない、あまりにも深刻な日本の財政危機。エンターテインメントでありながら、日本の危機をリアルに伝える、金融業界を取材した著者の本領が存分に発揮された小説。

 果たして日本の財政に出口(イグジット)はあるのか!

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