星野リゾートの星野佳路代表は、現場で起きる「事件」を大事にしている。

 ホテル・旅館のようなサービス業は、宿泊客からのクレームもあれば、要望に対して敏速に対応すべく解決策を練ることもある。社内でさまざまな行き違いが起きることもあれば、計画した通りにいかないことも多 い。

 それこそが「事件」だ。

 星野リゾートでは「事件」をリスクや問題としてとらえない。チームが成長するためのプロセスであり、解決していくことでスタッフの自信になると考える。『星野リゾートの事件簿2 ー なぜお客様は感動するのか?』の刊行にあたって、星野代表に自らの言葉で解説してもらった。

界長門(山口県長門市)の運営開始にあたり、同施設を訪問した星野リゾートの星野佳路代表(写真:森本勝義)
界長門(山口県長門市)の運営開始にあたり、同施設を訪問した星野リゾートの星野佳路代表(写真:森本勝義)

 星野リゾートは長野県軽井沢町からスタートした旅館・ホテルの運営会社だ。家業の一軒宿の経営改革に、星野佳路(よしはる)代表が乗り出してから約30年。2021年1月時点で国内外46カ所に旅館やホテルなどを手がけるまでに成長している。国内の有力な旅館・ホテルチェーンの一角に数えられるようになった。

 その間には、さまざまな「事件」があった。結婚式の当日に起きた突然のアクシデント、 地方の「グランドホテル」の改革、そして宿泊業に大きな影響を及ぼすコロナ禍……。

 このほど刊行の『星野リゾートの事件簿2』(以下『事件簿2』)は、星野リゾートで実際に起きた「事件」に、スタッフがどう向き合い、 解決したかのドキュメントだ。『星野リゾートの事件簿』(以下『事件簿1』)に次ぐ第2弾となる。『事件簿1』が2009年までの事件を扱ったのに続き、本書はその後の2010~20年にかけて起きた事件をテーマにしている。

 『事件簿1』から『事件簿2』の間に星野リゾートはどう変わったのか。また「事件」とは星野リゾートにとってどんな意味を持っているのか。星野佳路代表に寄稿してもらった。

施設の運営に直接かかわるケースは少なくなっている

 『事件簿1』と『事件簿2』の間の約10年で、大きく変わったことの1つは、代表を務める私の施設運営へのかかわり方だ。

 『事件簿1』のころ、私は全ての施設の運営により深くかかわっていた。運営を開始するときにはコンセプト委員会を立ち上げ、定期的に現場の会議にも参加し、課題もつぶさに見ていた。しかし、社内体制が整備されてきたことによって、最近では私が施設の運営に直接かかわるケースは少なくなっている。

 今ではそれを経営委員会にあたる「赤岩会議」のメンバーが機能別に担っている。運営施設数が増加し、社員数が増え、事業規模が拡大していることに合わせて、星野リゾートのマネジメント手法も、当然ながら変わっていかなければならない。

 振り返れば、各施設の詳細な運営にかかわっていたときにも、私は「自分が現場を訪問してできることは限られる」と思ってきた。現場で何かに気づいたとしても、いつもいるわけではないから、起きている事象はたまたまのことかもしれない。

 にもかかわらず、それをとらえて意見を述べたり指示を出したりするとしても、正しい方向とは限らない。現場を一番よく知るのはやはり、毎日そこで働いているスタッフであり、日々運営を担当しているチームが自ら解決策を考えることを意識していた。サービスの質を向上させ継続するには、現場のチームメンバーが目標とする最終像に共感し、自ら考え、発想し、行動するしか方法はなく、経営の仕事はそういうチーム活動をサポートする環境を整えることだ。

 これは米国の経営学者、ケン・ブランチャードのエンパワーメント理論において、重要な要素として取り上げられている。そのプロセスにおいて起こるべくして起こっていることが「事件」なのである。

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