「信認」の大切さを説いたセントラルバンカーの言葉

相場氏:『Exit イグジット』の冒頭に、前の日銀総裁の白川方明さんの著書『中央銀行』(東洋経済新報社)にある言葉を載せています。「信認は空気のような存在で平時は誰もその存在を疑いませんが、信認を守る努力を払わなければ、非連続的に変化し得るものです。そして、一旦、信認が崩れると、経済に与える影響は計り知れません」。これは本当に重い言葉だと思っているのです。1万円が1万円の価値を持つのは、信認されているからです。

藤巻氏:MMT(現代貨幣理論)論者が言うように、紙幣はいくらでも刷れます。しかし信用ある紙幣はいつまでも刷れるわけではありません。信用がなくなってしまったら、それこそハイパーインフレが起こります。紙幣が価値をなくし、ただの紙切れになってしまったら、誰も何も売ってくれなくなります。

 白川さんは、小説に登場する緑川総裁のモデルですね。非常にしっかりしたセントラルバンカーです。

相場氏:記者時代、日銀クラブの担当になった際に白川さんに挨拶に行ったときのことです。日銀の他の幹部の方は挨拶といっても、10分、15分は世間話をしてくださるのですが、白川さんは、名刺交換が終わった瞬間、「では」で終わりました。

 すると横にいた先輩が「白川さんはぶっきらぼうだけど、とてつもなくいい人だ」と言うのです。例えば、取材で入手した情報について確証を取りたいとき、重要な関係者に内容を明かして真偽を尋ねることがあります。記者の用語でこれを「当てに行く」と言うのですが、当てに行ったときに、うそをつく人もいるのです。記者としては、重要なネタを明かしているので、うそをつかれると正確な記事が書けず、非常に困るわけです。しかし、先輩は「白川さんに当てに行って、うそをつかれたことは一度もない。記者がきちんと取材した内容を確認したら、白川さんは絶対うそはつかない」と。現場の記者たちも白川さんを信頼していたのです。

藤巻氏:そういう方こそ、国民が求めている日銀マンであり、総裁じゃないかと僕は思います。くそ真面目で、金融政策を守ることで、国民を守ろうとする人ですね。

金融の流れは人の体で言えば血管の流れ

相場氏:現総裁の黒田さんは非常に優秀な方で、マクロ経済の運営については大変よくご存じです。ただ、中央銀行の運営の根幹である、プルーデンス(金融システムの健全性・安定性)についてのお考えはどうなのか、私にはよく分からないのです。

藤巻氏:財務省の官僚出身で財務官の経験もある方ですから、有能でしょうし、法律にも詳しいでしょう。ただ中央銀行の実務、さらにはマーケットとなると話は別かもしれませんね。

相場氏:私は日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム、日銀と取引先金融機関の資金や国債の決済をオンラインで行うシステム)のシステムの取材をしたことがあるのですが、その網の目がどれほど精緻なシステムかを知り、驚きました。日銀の方に何度も話を聞くうちに、金融の流れは人間の体で言うと血管の流れと同じだという考えをたたき込まれた気がしました。不器用だけれど、本当に日本の金融のことを考えている人たちだと思います。

(写真=北山宏一)
(写真=北山宏一)

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