第1回・世界と日本、気候変動対策の歩み(今回)
第2回・気候変動対策、企業ができること
第3回・気候変動対策、遅すぎることは決してない

佐久間裕美子(以下、佐久間): 平田さんは、「地球温暖化(global warming)」という言葉が使われるようになった90年代から気候変動の問題に取り組んでこられたわけですが、まずはきっかけから教えてください。

平田仁子(以下、平田): 1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットで、マレーシアの森林破壊の問題などが取り沙汰されていました。環境が脅かされると、経済的弱者が苦しむのだということがすっと入ってきたんです。
大学を卒業して出版社で3年働いていたのですが、たくさんのNGOがあるアメリカに行くことにしました。学生時代に授業を受けた星野昌子*さんの影響が大きかったと思います。NGOで働きながら非常勤で教鞭を執っていた星野さんからは、海外には日本と違う物差しがあるということ、また彼女自身が女性として、個人として、弱い立場にある人の視点に立っていたことなどから、大切なことをたくさん教えていただいたと思います。
(*編集部注:星野昌子さんは、1980年に日本国際ボランティアセンター(JVC)を設立した、日本のNGOの草分け的な存在。2022年逝去。)
佐久間: 90年代後半のアメリカでは、アル・ゴア副大統領が温暖化という問題の周知をして、運動の気運が盛り上がっていた記憶があります。実際にアメリカに行かれて、どんなことを学ばれたのでしょうか。
平田: 働いていたのはワシントンDCのClimate InstituteというNGOでしたが、スミソニアン博物館でもボランティアをするなど、たくさんの経験をしました。一言にNGOと言っても、アメリカには実に多様なNGOがあり、その後ろには、活動を支える多くの会員たちがいます。
また、寄付による免税の仕組みが整っているので、活動の規模も大きいし、NGOの存在自体が社会に根づいていました。アメリカの上院で法案を作るための政策議論の現場に同行させてもらい、NGOが政策立案に深く関わり、リアルなインパクトを与えていることを学びました。
NGOとして上院議員のオフィスを訪ねたりする中で、ネットワーク構築の大切さも学びました。その当時出会った人たちが、今、重要な地位についていたり、大使になっていたりして、国際的な人のネットワークは貴重な財産になっています。

佐久間: その後、日本でNGOの活動をするに至った経緯を教えてください。
平田: アメリカの実態を見て、NGOが育っていない日本には20年くらいの遅れがあると感じたわけですが、ちょうど1997年にCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)が京都で開催されることになっていて、日本で初めて気候変動の大きな国際会議を迎え入れるにあたり、市民社会として連携しようというネットワークが立ち上がっていました。
公害や消費者問題に取り組んでいた弁護士の浅岡美恵さんがリーダーとなって気候フォーラムが結成され、さまざまな市民団体が横に繋がって、政府に対するロビー活動などを始めたところでした。
COP3が終わって気候フォーラムが解散し、気候ネットワークが立ち上がろうとしているのを見て居ても立ってもいられなくなり、ここで働きたい、と手を挙げたのでした。

気候変動の問題は、学べば学ぶほどシングルイシューではないことがわかります。サイエンスの問題だけれど、政治の問題でもある。地質学を勉強しないといけないこともあるし、法律を勉強しないといけないこともあって、日々、新しいことを学びながらやってきました。飽くなき探究心が必要になりますが、飽きることはありません。その中で、関心のない政治家に関心を持ってもらうために、どう運動を走らせ続けるかをずっと考え続けてきました。
そういう意味で、今回このタイミングで『THE CARBON ALMANAC 気候変動パーフェクト・ガイド』の監修をする機会を頂いたことは幸運でした。気候変動の原因や対策を横断的に学ぶことができるし、私自身が知らないこともありました。

佐久間: 次回は、企業ができる気候変動対策について伺います。
平田仁子(ひらた きみこ)
Climate Integrate代表理事。2011年の福島第一原子力発電所事故の後に石炭火力発電所の建設計画の多くを中止に導いたことや、金融機関に対する株主提案などが評価され、2021年ゴールドマン環境賞を日本人女性で初めて受賞。2022年にClimate Integrateを設立し、各ステークホルダーの脱炭素への動きを支援している。著書に『気候変動と政治 -気候政策統合の到達点と課題』(成文堂、2021)。千葉商科大学大学院客員准教授。
佐久間裕美子(さくま ゆみこ)
文筆家。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家、作家、デザイナー、アーティストなど、幅広いジャンルにわたる著名人へのインタビューが高く評価されている。著書に『Weの市民革命』(朝日出版社、2020)、『真面目にマリファナの話をしよう』(文芸春秋、2019)他、翻訳書に『テロリストの息子』(TED Books/朝日出版社、2015)他。慶応義塾大学卒業、イェール大学大学院修士課程修了。
[ナショナル ジオグラフィック日本版サイト2023年2月22日掲載]情報は掲載時点のものです。

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