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 AKIに連絡してきたのは、実際に店舗にレビュアーを派遣する“筋の良い業者”だった。何度断っても、別の業者から声がかかる。口コミ代行業者の間で、店の総合得点への影響力が高い人物と見なされているようだ。

 食べログはやらせを排除するために、AKIのように頻繁に食べ歩き、投稿を重ねたレビュアーを食通と見なして、採点を店の総合得点に大きく反映させている。食べログはレビュアーの投稿総数を公開しており、これを参考に口コミ代行業者が影響力の高そうなレビュアーのリクルートを試みているわけだ。正当な投稿を重ねてきたAKIは、今回もやらせに協力することはなかったという(口コミ代行業者ややらせレビューの首謀者については拙著『サイバーアンダーグラウンド/ネットの闇に巣喰う人々』で詳しく触れている)。

黒幕は都心の居酒屋

 AKIがやらせレビューの書き込み先として指定されたのは、東京都心の居酒屋だ。記者が食べログに載った店舗の紹介ページを確認すると、3.5点以上のレビューがずらりと並んでいた。やらせかどうかは定かではないが、店を褒めたたえる長文と、店内や食べ物の写真がふんだんに添えられている。

 もっともこの居酒屋の総合得点は3.04と平均的な水準にとどまっている。レビューの総数が9件しかないのが原因と考えられる。食べログは算出方法を明らかにしていないが、影響力の強いレビュアーからの投稿が数多く集まらないと、総合得点にはあまり反映されない計算式になっているようだ。少数のやらせレビューで総合得点が変動してしまうのを防ぐ措置だ。

 食べログを運営するカカクコムにやらせレビュー対策に関して取材を申し込んだところ、書面で回答があった。全国各地で定期的にオフ会を開くなどしてレビュアーが実在していることを確認しているほか、口コミ代行業者にやらせを持ちかけられた飲食店から通報を受け付ける「やらせ業者通報窓口」を開設するなどの対策を取っているという。

 今後、新型コロナウイルスによる影響が長引けば、飲食店にとり、高評価のやらせレビューで客足を取り戻したいという誘惑は強まっていく恐れがある。正直者がバカを見る状況を許してはならない。

サイバーアンダーグラウンド』好評発売中!

 食べログやアマゾンで横行するやらせレビューの現場など、ネット社会の裏側を徹底取材! 日経BPから『サイバーアンダーグラウンド/ネットの闇に巣喰う人々』を刊行しました!

 本書は3年にわたり追跡した人々の物語だ。ネットの闇に潜み、隙あらば罪なき者を脅し、たぶらかし、カネ、命、平穏を奪わんとする捕食者たちの記録である。

 後ろ暗いテーマであるだけに、当然、取材は難航した。それでも張本人を突き止めるまで国内外を訪ね歩き、取材交渉を重ねて面会にこぎ着けた。

 青年ハッカーは10代で悪事の限りを尽くし、英国人スパイは要人の殺害をはじめとする数々のサイバー作戦を成功させていた。老人から大金を巻き上げ続けた詐欺師、アマゾンにやらせの口コミをまん延させている中国の黒幕、北朝鮮で“サイバー戦士”を育てた脱北者、プーチンの懐刀……。取材活動が軌道に乗ると一癖も二癖もある者たちが暗闇から姿を現した。

 本書では彼らの生態に迫る。ソフトバンクグループを率いる孫正義氏の立身出世物語、イノベーションの神様と評された米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏が駆け抜けた波瀾万丈の人生など、IT業界の華々しいサクセスストーリーがネットの正史だとすれば、これは秘史を紡ぎ出す作業だ。悪は善、嘘はまこと。世間の倫理観が通用しない、あべこべの地下世界に棲む、無名の者たちの懺悔である。

 サイバー犯罪による経済損失はついに全世界で年間66兆円近くに達した。いつまでも無垢なままでいるわけにはいかない。

 ネット社会の深淵へ、旅は始まる。