働く現場で感じる「恥」「怒り」「涙」は、全て経営学に答えがある――。

こう説くのは、経営学研究の第一人者である早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授だ。

入山氏は2022年10月、漫画家のさわぐちけいすけ氏との共著で『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』を出版した。多くの人が仕事で感じるモヤモヤやイライラを、最新の経営理論を通じてすっきり腹に落ちるよう解決案を示している。日経ビジネスLIVEでは、書籍発行に連動して1月24日に「入山章栄氏が語る、『自分を変える』ガチで役立つ経営理論」をテーマに、日経xwoman(クロスウーマン)と共同でウェビナーを開催した。多くの人が日々感じている仕事の悩みを、ビジネススクールで教える最新の経営理論に当てはめると、どんな解決策が見えてくるのか。実践的に解説してもらった。

(構成:森脇早絵、アーカイブは最終ページにあります)

小笠原啓・日経ビジネスLIVE編集長(以下、小笠原):本日は「『自分を変える』ガチで役立つ経営理論」と題して、早稲田大学ビジネススクール教授で経営学者の入山章栄さんにご登壇いただき、日経ウーマンの藤川明日香編集長も交えて議論を深めてまいります。それでは入山さん、藤川さん、よろしくお願いいたします。

入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授(以下、入山氏):皆さん、こんばんは。よろしくお願いします。

藤川明日香・日経WOMAN編集長(以下、藤川):よろしくお願いいたします。2022年10月に出版した『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』は、働く女性のモヤモヤを経営理論で解説してもらうという内容です。入山先生の経営学本の中でもこれまでになかったものではないでしょうか。

入山氏:ないですよ(笑)。本書は、著者というより原作協力という形です。僕は漫画が大好きなので、関わることができて喜んでいます。ただ、今回「役立つ」と紹介いただきましたが、役立たないですよ(笑)。それは言い過ぎとしても、世界中の何万という経営学者によって、組織のモチベーションの上げ方や人を引き付けるリーダーの法則はもう理論化されています。それらは絶対の正解ではないですが、物事を考えるときの切り口になります。僕はよく「思考の軸」という言い方をしています。

 日ごろからお仕事を頑張っている若い世代の悩みごとにも、そういう切り口で説明できるのではないか。このヒントを提供するのが、本書の役割です。思考の軸が分かると、ちょっと気持ちが楽になるのでは。

藤川:今日は、ビジネスパーソン三大「あるある」お悩みをピックアップしてお話を進めます。

仕事で失敗して消えてしまいたいときは、「知の探索」を

藤川:まずは、「仕事で失敗して消えてしまいたい」というお悩みです。

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 書籍では、副業をしている「佐藤よしみ」さんがミスをして、うじうじと悩んでいる。もう1人、事務職をしている「柏木れいこ」さんも失敗をして落ち込んでいたのですが、「推し」の「剛田」さんに声をかけられて、気持ちを持ち直すというストーリーです。

 ここで「知の探索」が役立つとのことですが、どういうことなのでしょうか。

入山氏:僕はよく、「失敗したら、意図的にお祝いしましょう」と言っています。人間は誰もが失敗するし、失敗は成長のチャンスだからです。成功体験も大事ですが、成功だけしている人は絶対に成長しないんですよ。

 人間には、「認知」と「感情」があります。ただ、人間の認知は狭い。少しでも自分の認知を広げて学習し続けることが、成長には絶対に必要です。

 ところが人間は、成功ばかりしていると、自分の見ている狭い世界が正しいと思いがちです。すると、成長しなくなってしまう。失敗は残念なことだけど、「自分の見ている世界は狭い」と気づくから、結果的に認知が広がるんです。経済学でも、最初のうちに失敗している人や組織の方が後になって大成功しやすいという研究結果があります。逆に、若いうちに成功ばかりしている人は、自分の認知が正しいと思い込むので、伸び悩む。そういう意味で、失敗は残念なことだけど、学習の機会だと捉えればいいのです。

 問題は「感情」です。なぜ、我々は失敗したくないかというと、感情が邪魔するからです。そこで、失敗したと落ち込む感情を和らげるには、自分に何かご褒美をあげることが有効です。

 このケースの場合、前半に出てきたよしみさんは、ご褒美のチャンスがなかった。後半のれいこさんは、たまたま失敗した直後に推しの剛田さんに会えて、チョコレートをもらった。奇跡的にご褒美が来たのです。ここで、失敗で落ち込んだネガティブな感情が、「もっと自分の認知を広げよう」とポジティブな感情に変えられた。

 ただ、この場合はれいこさんがラッキーだっただけ。このプロセスを自分に取り込むには、自分が失敗したら意図的にお祝いするというルールを作っちゃえばいい。