もはや、いつ大暴落が起こってもおかしくない――。コロナ禍が長引く中、高値更新が続く株式市場。しかし、空前の低金利や日銀の株式ETF(上場投資信託)買いを受けた“バブル相場”には、崩壊リスクも高まっている。もし、金融バブルがはじけたら、どう行動すべきなのか。『金融バブル崩壊 危機はチャンスに変わる』の著者である、さわかみ投信の澤上篤人会長と草刈貴弘最高投資責任者のそれぞれに、要諦を聞いていく。
金融バブルがはじけると、世界の債券市場や株式市場が収拾のつかない投げ売りの修羅場となる可能性があり、それを引き金に、あらゆる金融商品が崩れ落ちて瓦礫(がれき)と化す。それはやがてインフレを巻き起こす。財政赤字や債務問題を抱える各国政府や中央銀行に歯止めを利かせる余力は残っていない。結果、人々の生活はズタズタにされる──。
そんなバブル崩壊の懸念が高まる中、リスクに備えて、どうすればしっかりと身の回りを固められるのか。今回は、さわかみ投信の澤上会長インタビューの第2回をお届けする。
(聞き手はクロスメディア編集部長 山崎良兵、経営メディア局編集委員 藤田宏之)
澤上 篤人(さわかみ・あつと)
さわかみ投信代表取締役会長。1947年、名古屋市生まれ。1973年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。1999年に、日本初の独立系ファンド「さわかみファンド」の運用を始める。長期投資のパイオニアで、同ファンドの純資産は約3400億円、顧客数は11万6000人を超える。(写真:北山宏一)
草刈 貴弘(くさかり・たかひろ)
さわかみ投信 取締役最高投資責任者兼ファンドマネージャー。東洋大学工学部建築学科卒業。舞台役者、SBIフィナンシャルショップを経て、2008年10月さわかみ投信に入社。2013年1月より最高投資責任者兼ファンドマネージャー、2015年6月、取締役に就任。(写真:北山宏一)
コロナ禍により、航空、鉄道、旅行、ホテル、外食、アミューズメントパーク、百貨店など、さまざまな業界で収益が悪化する企業が目立ち、個人消費も冷え込む一方で、株価はバブル崩壊後の高値更新を続けています。「こうした異常事態はいつまでも続かない」と澤上さんは前回の記事で警鐘を鳴らしていました。最新刊『金融バブル崩壊 危機はチャンスに変わる』で詳しく触れているように、空前の低金利や日銀の株式ETF(上場投資信託)買いによる“人工的な株高”は、崩壊リスクが高まっていると指摘されています。
しかしながら澤上さんのような長期投資家の懸念をよそに、株高にブレーキがかかる兆候はなかなか見えてきません。むしろ長期的な視点に立って割安株に投資する「バリュー投資」はすたれており、ご自身でも「絶滅危惧種である」と笑いながらおっしゃっています。
澤上篤人氏(以下、澤上氏):「バリュー投資家は死んだ」との声さえ聞こえてきますが、私たちはそう思っていません。むしろ金融緩和をひたすら続け、お金を大量に供給すればいいといったマネタリズム的な考え方は、金融バブルが崩壊すればガタ崩れするでしょう。株式や債券のバブル高は消滅する可能性が高い。
しかし前回の記事でも触れたように、多くの企業や金融機関が破綻しようと、実体経済は消えてなくなることはありません。地球上の人々の毎日の生活を支えている企業、ビジネスは逆境でも動き続けます。金融バブルが崩壊しようと世界人口は増え続けるわけで、成長機会はなくなりません。
つまり金融バブルが崩壊し、株価がいったん暴落したとしても、実体経済を支える優れた企業の価値はむしろ見直され、反発していくでしょう。我々長期投資家は、株価バブルの崩壊により、こうした銘柄にむしろ割安感が出て、長期投資の絶好機がやってくると考えて、チャンスを虎視眈々(たんたん)と狙っています。我々がこのバブル下で投資している銘柄は、将来的に株式市場全体が大きく値を下げても、生き残り、価値が再認識される可能性が高いと考えているものばかりです。
バリュー投資のカリスマ、ジョン・テンプルトン氏の格言
バリュー投資に強い長期投資家といえば、米国のウォーレン・バフェット氏が有名です。こうした投資家も、過熱する一方の相場環境にあってどう投資するか悩んでいる印象もあります。澤上さんが尊敬する投資家はいらっしゃるのでしょうか。
澤上氏: 今はいませんね。バフェットさんもスタンスが変化しているように感じています。すでに述べたように長期投資家は絶滅危惧種になってしまいました。書籍『金融バブル崩壊 危機はチャンスに変わる』にも書きましたが、投資は本来「インベストメント・マネジメント」であるべきだと思うのです。しかし、今は多くの投資家の姿勢が「マネー・マネジメント」に変わってしまった。ひたすらマーケットの価格変動を追いかけては値ザヤを稼ごうとする資産運用が、投資ということになってしまっているのです。
ですので、あえて尊敬する投資家を挙げるとすれば歴史上の人物になってしまいます。例えば、ジョン・テンプルトン氏。世界恐慌が深刻化した1930年代に、暴落した株の中から優良銘柄を探して買い集めて大きな利益を上げた投資家です。そして、それらの価値が第2次世界大戦後の米国の産業復興で大きく膨れ上がり、大富豪となりました。長期的な視点と投資先を信じる覚悟のある人物に魅力を感じます。
ジョン・テンプルトン氏はバリュー投資のカリスマで、数々の投資の格言で知られていますね。とりわけ「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、陶酔の中で消えていく」という言葉が有名です。
また「他人が絶望して売っている時に買い、他人が貪欲に買っている時に売れ」「悲観の極みは最高の買い時であり、楽観の極みは最高の売り時である」といった名言でも知られています。バブルとも指摘される現在の株高が崩壊すると、まさにそのような局面がやってくる可能性が高いと考えていらっしゃるのでしょうか。
「安く買っておいて、高くなったら売る」という原則が大事
澤上氏:長期投資は単純で、「安く買っておいて、高くなったら売る」の繰り返しです。ですから、バブル崩壊で株価が大幅に下がれば、投資の大きなチャンスがやってくると認識しています。
もちろん金融バブルがいつ崩れても平気でいられるようにと考えて投資を続けてきました。つまりバブル崩壊で売られるリスクが高いと考える銘柄は投資対象からすべて外してあります。バブル的な株高を起こしている銘柄とは距離を置き、実体経済に視野を置いた投資をずっと重視してきました。
投資先は綿密なリサーチに基づいて決めており、地に足が付いたものを選ぶようにしています。さわかみ投信のファンドは1本しかありませんが、長期的に見て安定したパフォーマンスを上げており(ファンド騰落率は1999年8月の設定来で192.9%、3年で5.0%、1年で15.5%)、純資産総額は約3400億円に達しています。
今後、大恐慌の時のような状況もあり得ると思われますか?
澤上氏:金融バブルが崩壊すると経済のみならず、社会も大混乱をきたして、変なデマゴーグが出てくる危険性もあるでしょう。戦前でいえば恐慌の中でヒトラーとナチスドイツが台頭してきた時のような感じです。社会不安を背景にそうした動きが出てくることは十分に予想でき、最も怖いシナリオだと思います。
ナチスを例にとると、最悪の場合、戦争のような災いが起きるシナリオさえも排除できないというわけですね。そのような時代に、お金の置き場所は?
澤上氏:こういう時代に大切な考え方は、資産を増やすことより保全することです。私は、スイスに本社を置く欧州最大級の独立系資産運用会社、ピクテの日本代表を17年半にわたって務めていましたが、そのときにたたき込まれたのは、「資産運用とはカネを増やすことではく、保全することだ」ということです。そこでリスクについても学びました。その危険度で順位を付けると、1番は戦争、2番はインフレ、3番は社会変動、4番が金利、5番が景気です。
不動産投資はリスクが大きい
どのように対応すればいいのでしょうか?
澤上氏:個人という意味では、究極的には生産価値を生み出すものに資産を持っていくのがいいように思います。例えば、今だったら、郊外の農地を買って、農場経営をする、といった考え方です。農業では、10億から100億円の投資資金があれば、面白いことができるように思います。
不動産への投資はお勧めしません。カネあまりと低金利でバブルになっていると思います。金利が上がると、不動産は大幅に下がる可能性があります。ここでも安くなった時に買い、高くなったものを売るという長期投資の原則を守ることが大事です。
我々の投資原則の1つは、常にアセットアロケーションを考えることです。金利や景気変動に対応して、資産配分を適切に切り替えていくノウハウです。不況から回復する局面では株式。株価が相当高くなり金利が上がったら現金に換える。景気が減速し金利が下がりだしたら、債券へ。景気が底に向かいだしたら、再び株式投資に戻る。この循環が大きな流れの中での原則です。
今は金融業界も縦割り化が進んでいるので、こうした配分の切り替えが進まなくなっています。昔はストラテジストと呼ばれる人たちが考えてやっていた仕事です。ストラテジストは、ファンドマネージャーの上位の立場にいるべき存在で、アセットアロケーターともいいます。
縦割り化が進み、そのような伝統的な投資運用の基本を守ることが難しくなっているのが、今の投資の世界かもしれません。
澤上氏:例えば、巨大な年金もその1つでしょう。10年、20年先を考えた長期投資をしていたのですが、今や、短期投資にばかり目が向いている印象があります。金融バブル崩壊で株式や債券が暴落すると、年金資産のかなりの部分が消失するリスクがあることを考えるべき状況です。
こうしたリスクを理解している人は多いはずですが、世界中が資産運用にのめり込んで、短期的な投資を止められなくなっている状態です。繰り返しますが、生活密着型の経済、実体経済は穏やかに継続しているのは事実ですが、年金運用がそこから離れてしまっていることがリスクだと思います。
日本で長期投資が根付かないのはどうしてなのでしょうか?
澤上氏:歴史的な経緯の中で、日本に唯一あったのは実体経済への投資です。ダムなどへの公共投資。これは預貯金の資金が回ったものといえます。ただ、個人ベースではそれ以外は進みませんでした。高度成長期には必要なかったことも事実です。年功序列で給与は増え続ける時代でした。
「真面目に働く。必要なものを買う。無駄遣いをしない。余ったお金は預貯金する」。この4つが明治以降、日本人に推奨されてきた生活スタイルです。これらが、逆にブレーキになっている面もあります。無駄遣いに関しても、例えば、モノでなく、生活を豊かにすること、文化芸術などにお金を使うといった風に変わっていかないと、成熟した経済は回りません。
最後に、懸念されている金融バブル崩壊のリスクに備えて、読者にメッセージをお願いします。
澤上氏:繰り返しになりますが、一時的に損失をこうむったとしても、焦らず、バブルはバブルと見切ること。パニックに陥らずに、生活密着型の経済、実体経済に視点を置いて物事を考えることを肝に銘じて資産防衛と投資を考えれば、いつでも道は開いています。
コロナ禍が長引く中、高値更新が続く株式市場。しかし、空前の低金利や日銀のETF買いを受けた株高はいつまでも続かず、崩壊するリスクが高まっている。もし、金融バブルがはじけたとしても、慌てることなく、それをチャンスに変えて稼いでいくために、どう考え、どう行動すべきなのか。 長期投資の第一人者が 、その哲学を熱く語り、 投資戦略をクールにひもときます。
現代の金融システムや、古今東西の歴史を振り返って「バブルの仕組み」を分析し、その崩壊局面に備えて、どうすればしっかりと身の回りを固められるのか、を分かりやすく解説します。経済の本質を知り、自分の頭で考えることで、遠くない将来にやってくる可能性がある危機をチャンスに変えるための投資戦略を学べる1冊!
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