ティース教授:昨年、ニューヨーク・タイムズに寄稿した(原文はこちらに)。

 欧米の企業にとって、健全な社会と民主主義の維持は、自らの存在意義そのものだと書いた。なぜなら、中国やロシアなどの独裁的な国家が、西洋の自由な制度を破壊し、別のものに置き換えようとしている動きがあるからだ。

 この寄稿で、私はこう訴えた。

 「企業の社会的責任(CSR)として、国内、そして国外において、民主主義を守り、オープンでまともな社会を守らなければならない」

 「経済学者アダム・スミスが250年以上前に訴えたように、善行の欠如は社会を不快な場所にするが、不正義のまん延は社会を完膚なきまでに破壊する」

アダム・スミスの『道徳感情論』(高哲男訳)には、「社会の存続にとって、善行(ベネフイセンス)は、正義ほど不可欠なものではない。社会は善行なしでも存続する――もっとも、快適な状態にはほど遠いとしても――可能性があるが、不正の横行は、社会を完全に破壊するに違いない」とある。

米軍はグーグルを厳しく批判した

CSRというと、一般には「善行を積む」といったイメージがあります。しかし、ティース教授の考えでは、社会が今、企業に求めていることは、善行を積むなどという生ぬるいものではなさそうですね。独裁的な国家による「不穏な動きを感知し、これを機会と捉え、場合によっては変革を促すために戦う」ことも必要であるのかもしれない。「中国との戦い」もある意味、一種のCSRと位置づけられているのでしょうか。

ティース教授:全体主義はたぶん民主主義よりもはるかに効率的だが、人類の福祉にとってはあまりよくないものだ。我々人類は、独裁的な国家(の下で生きるの)と比べて、相対的な自由を手に入れるためだけに、250年以上も年月をかけた。これは偉業であった。

 そして今、民間企業もそこ(自由の価値)に目を向けつつある。新しいタイプのCSRといえるだろう。

 とはいえ、企業にとって意思決定はより難しいものになる。

 さらに(今後10年の人間社会を変化させる新しい技術といえば)、もちろんAIだ。

 米国企業について考えよう。例えばグーグルだ。グーグルにとって初めて(自らの法人としての)国籍が重みを持ち始めた。グーグルは、米国防総省には協力しないのに、中国軍のAI研究には協力しているようだと、米軍や米国政府関係者らから激しい批判を受けた。

日本経済新聞の報道によると、昨年3月、米軍制服組トップのジョゼフ・ダンフォード統合参謀本部議長は、議会上院の軍事委員会の公聴会で「グーグルの中国での取り組みが中国軍に対して間接的に恩恵となっている」と証言した。グーグルが中国にAIの研究拠点を設けることなどにより、革新的な技術が軍事分野に転用されるリスクがあるとの懸念を示した発言とみられる。さらにパトリック・シャナハン国防長官代行は、グーグルについて「米軍への支援が欠けている」と非難したという。

ティース教授が提唱する「ダイナミック・ケイパビリティ」は、中国ハイアールの最高責任者(CEO)である張瑞敏氏に大きな影響を与えていて、面識もあります。そんなティース教授の発言ですから、なおさら重いと感じます。

ティース教授:世界秩序を変えることに対する、企業経営者の責任とは何か?

 これは極めて大きな問いだ。

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