日経ビジネス電子版の人気連載に大幅加筆、編集した『データから真実を読み解くスキル』を著した、松本健太郎さん。

 本業は、報道ベンチャーのJX通信社のマーケティング部門で働く、データサイエンティストだ。しかし、14年前、新卒でITベンチャーに就職したときは営業職だった。プログラマーに転向した後、社会人大学院で学び直して、データサイエンティストになった。

 そんな松本さんのキャリアの変遷をたどりつつ、ネット広告やデータサイエンス、マーケティングの意義や本質などを尋ねるインタビュー。ITベンチャーで営業からエンジニアに転身した経緯や、リーマン・ショックがネット広告業界に及ぼした意外な余波などを尋ねていく。(聞き手は日経ビジネス)

新卒でITベンチャーに就職したときには、営業職だったそうですね。

松本健太郎さん(以下、松本):僕は龍谷大学法学部政治学科卒で、パソコンのスキルもさほどなく、ましてプログラミングのスキルなんて、全然ありませんでした。

それがなぜ、データサイエンティストに?

松本:データサイエンティストになる前段として、エンジニア職に転向しています。入社半年後の秋でした。

 ざっくりいうと、営業で挫折したのです。就職先のロックオン(現イルグルム)は、若いベンチャー企業。社員はまだ十数人しかいなくて、僕は新卒採用の1期生。そんなベンチャー企業の営業現場はまさに戦場で、戦力になるには非常に厳しいものがありました。

急成長ベンチャーの営業で挫折

ロックオンは、2000年の創業。主力商品はネット広告の効果測定システム「アドエビス」で、松本さんが新卒で入社した07年以降、急成長し、14年、東証マザーズに上場します(19年、イルグルムに社名変更)。

松本:アドエビスは今でいうサブスクリプションサービスで、顧客にとって導入の障壁は高くありません。営業する先は広告代理店、ないしは広告主となる事業会社です。新卒社員には、そんな会社に人脈もなければコネもありません。どうやってお客さんを見つければいいのか、どうやって食い込めばいいのか、僕にはよく分かりませんでした。

 ネット広告に興味を持ちそうな企業にアタリをつけて、電話をしたり、メールをしたりするわけですが、担当者が誰で、どこにいるのかもよく分かりません。たらい回しにされた末に、やっとアポがとれて訪問しても、けんもほろろの対応を受けたりします。

 今でこそスマホのおかげもあって、インターネット利用は当たり前になりましたが、当時はまだ、パソコンも「オタクが使うモノ」という空気がありました。広告主の間でもネット広告の有用性が認知されていないのに、その効果測定をするツールについて説明しても……。「それって、そもそも何のためにやるのでしょうか?」という話になってしまい、非常につらかったのを覚えています。

 そんなことを続けているうちに、入社半年ほどで、メンタルをやられてしまいました。笑いごとじゃないんですけど、今になっては笑えますね。僕も、もう少しやれることがあったと思うのですが、当時は自分に余裕を持てなかったのです。

松本健太郎(まつもと・けんたろう)
1984年生まれ。龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で“学び直し”。その後、株式会社デコムなどでデジタルマーケティング、消費者インサイト等の業務に携わり、現在は「テクノロジーで『今起きていること』を明らかにする報道機関」を目指す報道ベンチャー、株式会社JX通信社にてマーケティング全般を担当している。政治、経済、文化など様々なデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とし、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌にも登場している。著書に『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』『データサイエンス「超」入門』(毎日新聞出版)、『なぜ「つい買ってしまう」のか?』『誤解だらけの人工知能』(光文社新書)など。(写真:栗原克己)
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