ファミリービジネスを裏で支えた女性たち

渡辺:父が何よりすごかったと思うのは、株の集約です。

星野:なるほど。創業家が相続を繰り返すと、創業者が持っていた株が分散してしまい、経営の舵(かじ)取りが難しくなります。だから、どこかで経営を担うメンバーに株を集約しなくてはなりません。ファミリービジネスに特有の課題です。

渡辺:祖父が亡くなったとき、父は株以外の資産は何も相続せず、祖父の実の子どもたち、すなわち「家付き」の子どもたちに譲りました。後継者になれなかった伯父の子どもたちにも、祖父の資産を分けました。だから、親族の関係は良好で、正月には今もみんなで集まりますし、株の集約にも理解を示してくれました。

星野:いや、立派なお父様です。「我慢の7代目」だったのですね。

渡辺:実のところ、6代目の祖父も、我慢の連続だったと思います。戦争で店が丸焼けになったところからの復興を担ったのが、祖父でしたから。祖父も養子で、もともと千葉の名家の出身でした。よく難題を引き受けたものだと思います。

 そんな祖父を養子にしたのは、5代目の妻、私の曽祖母です。5代目は船橋屋にとって久しぶりの家付きの跡取りでしたが、早くに亡くなりました。その後、2人の娘を育てながら暖簾(のれん)を守ったのが、曽祖母でした。その曽祖母が、祖父を見出し、婿養子として迎え入れたのです。

星野:成功しているファミリービジネスの歴史をたどると、女性が重要な役割を裏で果たしていることがよくあります。船橋屋さんもそうだったのですね。

 前回前々回から続く、この3回シリーズでは、玉川堂、船橋屋という創業200年を超える老舗を研究してきました。

 両社において「先代が養子」という共通項が浮かび上がったのは、興味深いことです。婿養子は、跡取りとして優秀であることが多いという経営学の研究成果は、過去に紹介しました(こちらの記事)。しかし、今回、取材したのは、跡取りに見事なバトンタッチをした「優秀な先代」が、養子であったというケースです。この点について今後、アカデミックな研究を期待したいところです。

星野リゾートの星野佳路代表。ファミリービジネス研究をライフワークとする(写真:栗原克己)
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