星野リゾート代表の星野佳路代表がライフワークとしている、ファミリービジネスの研究。2019年に刊行した『星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書』を踏まえ、その後の研究成果をお届けしている。
今回、取材したのは、創業217年の老舗和菓子店、船橋屋(東京・江東)。前回、前々回の玉川堂(新潟県燕市)に続き、創業200年を超える老舗企業を、若い後継者が改革したケーススタディーだ。
このようなケースでは、改革を推進した後継者以上に、若い経営者に権限委譲した先代の貢献が大きい。ベテラン経営者が、若者に経営権を譲るという大胆な決断を下せたのはなぜか? 「養子」というキーワードが浮かび上がった。
(構成/小野田鶴)
くず餅の製造・販売を手掛ける船橋屋は、文化2年(1805年)創業の老舗ですが、新卒採用の人気企業としても知られています。5人の新卒採用の枠に、全国から1万6000人以上の学生がエントリーしたこともあります。8代目の渡辺雅司社長に、お話を伺います。
星野佳路氏(以下、星野):なぜ、就活生の間でそんなに人気があるのでしょう。私自身、星野温泉旅館(当時)の後を継いだ当初、採用に苦労したので興味があります。
渡辺雅司氏(以下、渡辺):船橋屋は、表から見ると「老舗の和菓子屋さん」かもしれませんが、内実はベンチャーみたいな企業です。新しいプロジェクトを若手ががんがんと動かしている空気を、会社説明会などで感じてくれているようです。「先輩がキラキラしている」「こういうところで自分も働きたい」と。
くず餅は不思議なお菓子で、450日間、小麦でんぷんを発酵させて作ります。お客様の間で昔から、「船橋屋さんのくず餅を食べていると、なぜかお腹(なか)の調子がいい」という声があり、本格的に研究してみたところ、発酵槽の中で植物系乳酸菌が熟成されていることが分かりました。これを「くず餅乳酸菌」と名づけ、サプリメントにして販売し、化粧水も開発しました。今は、自分たちのことを「健康提案企業」だと位置づけています。
星野:なるほど、それで「内実はベンチャー」。私たちの地元、長野県の伊那食品工業(長野県伊那市)を思い出します。寒天メーカーですが、応用範囲を医療分野にまで広げています。興味深い。
創業200年以上の老舗を後継者が改革してきたという意味では、前回、前々回と紹介した、玉川堂と相通じるところもあります。なぜ、改革が可能だったのか、事業承継のプロセスに遡って探りたいと思います。
渡辺:船橋屋は、代々、養子の跡取りが多いのです。

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