日経ビジネスで1年間連載した相場英雄氏の小説『Exitイグジット』が書籍化された。日本が抱える最大の問題である『財政』に切り込んだ作品の中には、「世界中にヤバい国はたくさんあるが、一番ヤバいのは日本」「(日本は)ノー・イグジット(出口なし)」という登場人物のせりふが飛び交う。著者である相場氏は通信社の記者として日銀や株式市場など金融業界を取材した経験を持ち、日本の金融、財政政策に危機感を抱いていた。だが、連載開始後に新型コロナウイルスの感染問題が発生し、事態はさらに深刻化した、と見る。相場氏が作品に込めた思い、日本の財政に対する危機感を聞いた。

(聞き手は日経ビジネス)

三洋証券デフォルトで知った資金詰まりの怖さ

日経ビジネスで小説を連載されるにあたり日本の金融政策をテーマに選んだのはなぜですか?

相場英雄氏(以下、相場氏):日経ビジネスの中心的な読者は、現役のビジネスパーソンや経営者です。つまりターゲットが絞られています。書き手にとって、ある意味楽でもありました。要するに、経済について初歩の初歩を説明しなくても済む、という前提がありました。じゃあ次にテーマはどうしようかと考えると、以前からずっと抱いていた〈危うい金融政策〉の存在が浮かび上がりました。しかし日銀の金融政策は地味で、とても複雑な事柄が多い。大半の国民が詳細をほとんど理解していないわけです。主要なメディアを見渡しても、わかりやすく記事を書き続ける記者がほとんどいないと感じます。金融市場関係者が抱く危機感が世間に伝わっていないのが実情です。それを何とかして絵解きの形で小説にしたいと考えました。

相場英雄(あいば・ひでお)氏
1967年新潟県生まれ。89年、時事通信社に入社。95年から日銀記者クラブで為替、金利、デリバティブなどを担当。その後兜記者クラブ(東京証券取引所)で市況や外資系金融機関を取材。2005年『デフォルト債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、翌年から執筆活動に。2012年BSE問題をテーマにした『震える牛』が大ヒット。『不発弾』『トップリーグ』『トップリーグ2』などドラマ化された作品も多数ある。写真:北山宏一

書きたいと思っていたテーマだったのですね。

相場氏:1990年代半ばから後半にかけて、日銀記者クラブで日々、外為市場や短期金融市場を取材しました。換言すれば、この国の資金繰りを丹念にウォッチしていました。短期金融市場では銀行、証券会社、生保、地銀など様々なプレーヤーが巨額の資金をやりとりしています。そして、日銀がどのようなオペレーションを実施し、金利を誘導するのか固唾を飲んで見守っていました。例えば、〈短期金利が上がり気味だけど放置するのか〉、〈抑えにいくのか〉といった具合です。日銀のオペによって金利は激しく上下動した時代がありました。プレーヤーごとに日々の資金需要が大きく異なるため、日銀のオペを巡って市場全体に緊張が走ったものです。

 しかしそんな最中、97年に三洋証券の債務不履行(デフォルト)が発生しました。数兆円単位のお金が行き来する市場で、同社の経営破綻をきっかけに深刻な目詰まりが起こりました。市場の動揺を人体に例えれば、同社の倒産劇は指先の毛細血管が詰まる、といったレベルでした。しかし金融不安が台頭していた時代だったため、些細な詰まりが体全体の麻痺につながるような状態に陥ったのです。マーケットが機能不全になる怖さを、身をもって知りました。

 現状は超金融緩和政策が長期化し、金融市場はジャブジャブ、つまり極度の金余り状態です。なぜこんなことになったのか。その中身と内包するリスクを読者に伝える必要があると考えました。

カネがないのにキャバクラに行き続けるのと同じ

いつごろから危機感を持つようになったのですか?

相場氏:2010年、当時の白川方明日銀総裁が、国債をはじめ各種資産の買い入れに踏み込むこと〈包括的な金融緩和政策〉を決めたときです。保守的で、徹底的に理詰めで考えて行動される方がここまで大胆な金融緩和に踏み切るのかと、正直なところ仰天しました。

小説『Exitイグジット』の冒頭でも、相場さんは「信認が崩れると、経済に与える影響は計り知れない」という白川さんの言葉を引用しています。ここでいう信認とは、まさに日本の国、そして円という通貨に対する信認ですよね。

相場氏: そうです。当時の白川総裁があり得ないほど大胆な決断を行なったにもかかわらず、永田町は全然足りないと反発し続けました。白川氏は任期の最終盤に辞任されましたが、あれは彼なりの猛烈な抗議だったと思っています。

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