昨年、日経BPから刊行した『世界最高峰の経営教室』。経営学者を中心に、世界トップクラスの研究者17人から、ビジネスに示唆のある話を引き出したインタビュー集だ。

 知的刺激に富む論考をバラエティー豊かに取りそろえることを狙って編集したが、読者からは、「教授一人ひとりの話が短くて読み足りない」との声が、多く寄せられた。

 そこで今回から、同書に登場する、「ダイナミック・ケイパビリティ」の生みの親、米カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・ティース教授のロング・インタビューを、数回に分けてお届けする。

 さらに、米スタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授については、日経ビジネス有料読者向けに独占収録した「両利きの経営」の特別講義を公開する。1月20日20:00スタート。視聴登録はこちらから。

ティース教授が提唱された「ダイナミック・ケイパビリティ」への関心が高まっています。ダイナミック・ケイパビリティは、直訳すれば「動く能力」となりますが、論文などを拝見すると、「組織が変化する能力」と言い換えられそうです。

ティース教授:私が提唱するのは、単なる変化ではない。正しく変化することだ。

「正しく変化する能力」――。これをダイナミック・ケイパビリティと呼びたい。

具体的にはどのような能力を指すのでしょうか。

ティース教授:解明するには時間がかかる。簡単にできることなら、とっくに誰かが解明しているはずだ。

確かに、ダイナミック・ケイパビリティの概念は、1997年にティース教授が発表して以来、今なお、世界中の経営学者がさまざまな切り口から論じ、研究が続けられていて、未完成ともいえます。それだけ重要であり、複雑です。

ティース教授:私が敬愛するピーター・ドラッカーは、こんな言葉を残した。

「正しくやることが重要なのではない。正しいことをやるのが重要なのだ」

『現代の経営(下)』(上田惇生訳)には、「重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはない」とある。
<span class="fontBold">デビッド・ティース(David J.Teece)<br> 	米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授</span><br> 1948年生まれ。75年米ペンシルベニア大学で経済学の博士号を取得(Ph.D.)。米スタンフォード大学、英オックスフォード大学を経て82年から現職。産業組織論、技術変革研究の世界的権威で、200本以上の論文を発表。特に1997年発表の論文で提唱した「ダイナミック・ケイパビリティ」の概念は大きな反響を呼び、今も数多くの研究者が理論化に取り組んでいる。
デビッド・ティース(David J.Teece)
米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授

1948年生まれ。75年米ペンシルベニア大学で経済学の博士号を取得(Ph.D.)。米スタンフォード大学、英オックスフォード大学を経て82年から現職。産業組織論、技術変革研究の世界的権威で、200本以上の論文を発表。特に1997年発表の論文で提唱した「ダイナミック・ケイパビリティ」の概念は大きな反響を呼び、今も数多くの研究者が理論化に取り組んでいる。

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