モノをつくるというのはものすごく高度なこと

 POSであれば、POSの機械を売るというのが、従来のメーカーのビジネスです。その先、CRM(顧客管理システム)や店舗管理みたいなサービスまで手掛けるようになると、この商材を使ったサービス提供になります。さらにここから出てくるデータをスマートレシートでデータ化して、個人のデータと企業のデータをマッチングするとビッグデータビジネスになります。

 データを生み出すモノ、サービス、そしてデータの3つの流れすべてを手掛けられるようになるのが一番理想的な状態です。GAFAのような従来のデータ企業は、モノの部分がなくて、いきなりサイバー上のデータだけをやっていたんですね。

 ただ、サイバー上に限ったデータの爆発というのは、もうかなり止まってきていますから、今後は彼らもフィジカルの世界に入ってくるようになるでしょう。例えば、自動運転ならクルマというモノがあり、クルマのシェアリングがあり、その上に自動運転のデータが載るわけですが、やはりクルマというフィジカルなモノが必要ですよね。データの発生元が、もうフィジカルの世界に来ているわけです。ある意味、彼らはこれまで「いいとこ取り」をしてきたわけですが、フィジカルに手を出した瞬間に彼らの収益性は落ちるでしょう。

 その点、私たちはモノをつくってコントロールする力を持っています。極端な話、原子力発電所から出てくるデータって、これはどこまで使えるか分からないけど、このデータのコントロールって絶対にGAFAにはできませんよね。

 モノをつくるというのは、ものすごく高度なことで、人命もかかってきますし、非常に難しいわけです。それこそ、お菓子を1つ作るだけでも、ものすごく大変ですよね。万が一、何かが混入してしまったら、アレルギーや食中毒で人が死ぬ可能性がありますから。ものづくりというのは本当に大変なことなので、GAFAが、そういうリアルの世界から発生するデータをすべて支配することは絶対にないと思います。

 ですから、私たちにも勝機はあります。絶対勝てるところにターゲットを絞って、そこでデファクト化するという作戦を採ろうと思っています。

 このデファクト化するエリアというのは、狭くていいんです。例えばタクシーと、個人がほとんど乗らないクルマの在庫というものを結び付けたのが、ライドシェアというビジネスです。クルマは日本だと約5%しか稼働してませんから、95%のストックをタクシーというモビリティーの方に動かしただけでも、グローバルにデファクト化するモデルがつくれた瞬間にものすごい企業価値が生まれてきます。

 ですから、標準化、デファクト化ができれば、どんな狭いエリアでも軽く1兆円くらい出ます。ライドシェアが国内で完全に自由化されて、国内トップのベンチャー企業が出てきたら、おそらく1兆円の時価総額は軽くいくと思うんですね。

 決して我々は「世界中のあらゆるものをデファクト化するんだ」と大それたことを言っているわけではありません。特にハードウエアで力があるタービンの情報やあるいは今後、分散電源になってくると電力需給を調整するVPP(バーチャルパワープラント)みたいなところ、我々なりに強みがあるところを生かして、気が付いたら「東芝という会社はインフラ企業であってサービス事業者でもある。データ事業者でもあるよね」となれれば。あくまで技術をベースにした上でのサービスを生み出し、それをもってデジタルでのポジションを取りたいなと思います。

 今、大きな時価総額を持つ企業は、ほとんど自分たちでモノをつくっていないですよね。他人がつくったものをさらに組み合わせて他人につくらせ、ビジネスモデルだけで勝負をしてものすごい利益を出すというのは、何かがおかしいですよね。

 私たちには、研究所の強さだったり、メーカーとしての伝統だったりがありますから、ものづくりや技術の面で強みを出して、その先のサービスやデジタルデータにつなげていきたいと考えています。

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 「製造業のアフターデジタルとは」。日本が抱えてきた課題を一気に顕在化せしめた新型コロナウイルスは、容赦ない変革を日本企業に突きつけている。GAFAと呼ばれる米大手IT企業らはコロナ禍を追い風に変え、成長を加速。一方、日本企業はGAFAの勢いに押され生きる道を失ったかに見える。

 だが、今、GAFAが押さえているデータは一部にすぎない。多くの価値あるデータがオフラインの世界に手つかずのまま眠っている。ハードウエアに強い日本はこれらをうまく活用できれば、これから始まる2回戦を優位に進められる。そのために押さえておくべきネットワーク理論「スケールフリーネットワーク」のビジネスでの実践方法とは。

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