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CPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジーカンパニーという新しい事業モデルを目指す東芝。主導するのが、2018年4月に同社CEO(最高経営責任者)に就任した車谷暢昭氏だ。新刊『スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX』(島田太郎、尾原和啓著)でインタビューに応じた車谷氏が、東芝のビジョンを語る。

車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)氏
東芝代表執行役社長CEO。1980年4月に三井銀行(当時)入行。三井住友銀行取締役兼副頭取執行役員を務めた後、シーヴィーシー・アジア・パシフィック・ジャパン会長兼共同代表を経て、18年4月に東芝代表執行役会長 CEOに就任。東芝の復活の道のりを示した「東芝Nextプラン」を策定するなど、強力なリーダーシップを発揮して早期黒字化に貢献。20年4月より現職。(写真:新関 雅士)

 私がオファーをもらい、東芝のことや今後のビジネス環境について、いろいろと調べはじめたのは2018年2月くらいでした。その中で、日本のトップ企業の社長や、創業者社長といった方々とお話をさせていただいたのですが、皆さん口をそろえて「これからは情報そのものがビジネスになる」ということをおっしゃっていました。これは業種に関係なく、です。これまでは半導体だったり石油だったり、様々なモノが経済の中心にありましたが、これからはあらゆる産業でデータ、情報というものが価値創造の核になるから、そこにこそまい進すべきであると私も確信しました。

 それまでの東芝というのは、例えば原子力の会社であり、半導体の会社でしたから、どちらかというと資本を大量に使って大規模な工場を建てて、ものすごく大きなものをつくる、というビジネスモデルだったんですね。これは、いわゆる戦後型の総合電機といわれるビジネスモデルで、社会に大きく貢献してきた側面はあります。

 ただ、GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)の登場とともに、下請け型のモデルになっていき、なかなか価値を創造できなくなってきました。大きな資本を使う事業というのは、どこかでダメになったとき、残った工場を大規模に減損する必要があり、事業としてはなかなか難しいのです。では今後どこが一番成長するのかと見ていくと、やはりデータが重要ということになります。

 そんな観点から東芝はどうかと考えてみると、実は東芝は(発電用)タービンだけでも2000基以上と、世界最大規模のタービン供給をしてきた会社なんですね。つまり、よく考えるとこの分野ではプラットフォーマーなんですよ。これまでモノの供給をしてきたということは、ある意味プラットフォーマーだと言えるわけです。

 例えば、今、島田氏(東芝執行役上席常務・最高デジタル責任者の島田太郎氏)が取り組んでいるPOS(販売時点情報管理)という世界も、これは国内でシェア約6割を持っています。カナダやメキシコでも1位、アメリカでは2位、中国や韓国では3位と、非常に高いシェアを持っていますから、世界最大のプラットフォーマーなんですね。

 これまで総合電機として供給してきた膨大なフィジカルアセットから出てくる情報、そこにはIoTといわれるようなモノの情報から人の情報までありますが、これらを活用すれば今後東芝がデータカンパニーに転換できる素地は十分あると考えました。

 その背景には、これからはフィジカル、つまり現実世界のモノから出てくるデータというのがデータ社会の中核になるという予測があります。これはいろいろな数値がありますが、世界全体のデジタルデータ量は、2018年当時で33ゼタ(10の21乗)バイトくらいといわれていました。ところが1ゼタバイトを超えたのも、そんなに昔の話じゃないんですよ。

 1ゼタバイトから30ゼタバイトくらいまで、つまりこれまでのデータというのはインターネット上の、例えば検索エンジンとかEC(電子商取引)といった、いわゆるGAFAの世界のもので、彼らが数社で独占してしまっているわけです。それだけでも、彼らはとんでもない企業価値を築いてきたわけです。

 今後、いわゆるフィジカルな世界から出てくるデータが、データ量全体の成長をけん引することは間違いありません。そうなると、今までGAFAが独占し、企業価値を形成してきたよりもはるかに大きなデータのマーケットが出現します。そして、そのデータはこれまで私たちが提供してきたハードウエアというものが主な供給源になりますよね。ですから私たちは、モノを供給しながら社会のインフラを実装し、なおかつそこに使われるデータやサービスも、私たち自身が事業化するようなモデルに変えていきたいと考えています。

 これまで私たちは総合電機として、モノを売っているだけでした。そうではなく、私たちは「インフラサービス」と呼んでいますがサービスも売りたいし、そこから出てくるデータも売りたい。そうしていくと、私たちのビジネスは、下請け型のメーカーから、サービス提供企業に変わり、デジタルを活用した事業モデルに自然に変わっていく。そう考えて、私は東芝は劇的に変われるはずだという確信を持ちました。

 もともと東芝にはすごい技術力があります。新しいデジタル時代の基礎を築くような、基本的な技術力があるのです。そういう意味では、東芝には非常に大きな可能性があるとは思っていました。

 ただ唯一足りなかったのは、そういう素晴らしい人材や技術を生かして、ビジネス化する人。あるいはプラットフォームから出るデータをうまく使う人。そういう人が、残念ながら東芝の中にはいませんでした。外からそういう人に来てもらって、東芝の膨大なアセットをアクティベートしてもらおうということで「東芝のデジタルトランスフォーメーションをやってみないか」と島田氏に声をかけました。