好きなのは技術ではなく、技術を生かすこと

 仕事を頑張ったことが認められて、米国の大学院に留学することになりました。進学した米ペンシルベニア大学の経営大学院、ウォートンスクールで出合ったのがインターネット、そしてインターネットが持つ壮大な可能性です。

 1995年に帰国すると、迷わず退社し、日本で最初のネットベンチャー「ハイパーネット」に参加し、インターネットサービスをゼロから始めました。しかし、同社は翌年あえなく倒産。仕方なく移ったNTTドコモで携帯電話とインターネットを融合させるサービスを立ち上げました。その後は、大学で教べんを執りながらIT(情報技術)会社の経営を手掛ける怒濤のようなネット人生を歩み、現在に至ります。

 これまでのキャリアを振り返ると、結局僕も、やってきたことのベクトルは、「テクノロジーを社会に実装すること」だったように思います。美しいコーディングとか、エンジニアとしての優秀性を追求するよりも、その技術を使って研究をどう進めるか、仕事をどう効率化するか、人々のライフスタイルをどう変えるか、ということに知恵を絞り、実践してきたように思います。そして今、政府や東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会など公的な委員会でテクノロジーの面から意見を求められる機会が多くなっています。

 振り返って分かるのは、紆余(うよ)曲折、波瀾(はらん)万丈を経て、僕のベクトルは最終的に定まってきたことです。自分の関心事をあきらめず追求し、労を惜しまず動き、いろいろな壁にぶつかりながら、それでもなにがしかの結果を出し続けていれば、自分のベクトルは定まってくる。そうすることで社会の中での自分の役割も定まってくるのでしょう。

 自分のベクトルが定まってくると、そして社会の中で自分の役割が定まってくると、必然的に、やらなければいけないこと、自分が社会に貢献できることが明確になってきます。仕事の醍醐味はまさにここにあります。自らが社会に求められているという実感、自分が社会に貢献できているという実感は、お金では買えない喜びであり、誇りです。仕事人生というのはそれを実現するために走る道のりなのかもしれません。

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