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誰も決断しない

 そんな米国人と、日本人は大きく違います。特に大企業の正社員になった人たちは、クビになる心配もないし、会社が倒産する心配もないので(これは勘違いであるケースが多いのですが)、私から見れば、平社員から社長まで「当事者意識」に欠けているのです。

 日本の大企業で働く人たちも、最近は「危機感を持っている」とは言いますが、結局は(経営者も含めて)サラリーマンなので、緊張感が全然違います。

 数年前に、とある複合機メーカーの経営陣から「うちの若い連中からイノベーションが生まれてこないので何とかしてほしい」と相談されたことがあります。若手のエンジニアたちと話をしたところ、「日々の仕事が忙しくてイノベーションを起こす暇はない」と言います。その一方で「与えられた仕事は、将来性のない複合機のソフトウエアをアップデートするつまらない仕事」だと言う。「そんな仕事をする必要はないでしょう」と聞くと、「それを決める立場に私はない」と答えるのです。

 そんな仕事をさせている中間管理職には、「市場が先細りの複合機の売り上げを何としてでも維持すべし」という指示が経営陣から来ており、仕方なく「つまらない仕事」を部下にさせているのです。

経営者に迎合する「罪」

 本を正せば、思い切った経営戦略の変更ができない経営陣が悪いのです。とはいえ、そんな経営者に逆らいもせず、かつ、会社を辞めることもなく文句ばかり言いながら日々の「つまらない仕事」に追われているエンジニアや中間管理職も、私から見れば同罪です。

 複合機のビジネスをしているのであれば、他の企業がドキュメント関係でどんな仕事をしていたのかは理解できていたはず。ならば、Dropbox(ファイル共有)、DocuSign(電子署名)、Slack(コラボレーション)、Zoom(ビデオ会議)などのエンタープライズビジネスを自分で立ち上げるべきだったと思います。こうした企業を買収することもできたでしょう。

 似たようなことは、日本のあらゆる業界で起こっています。漠然とした危機感は抱きつつも目の前の仕事をこなすことに忙しく、「この業界にいても大丈夫なのか?」「こんな経営者たちに付いていって大丈夫なのか?」という厳しい目を会社に向けずにいるサラリーマンであふれているのが日本なのです。

経営者を選べ!

 イノベーションのチャンスは、会社や上司から与えられるものではありません。

 大切なことは、自分の立場にかかわらず、当事者意識を持って、仕事をすることです。つまらない仕事や無駄な作業が多いと思うのであれば、堂々と反対意見を表明すべきだし、ダメな上司にたてつく度胸が必要です。

 どんなポジションにあっても、会社がどの方向に向かうべきかを真剣に考え、そこで自分ができること、すべきことを精いっぱいすべきなのです。「長い物には巻かれろ」「出る杭(くい)は打たれる」という思考でいる限りは何も変わりません。目立つこと、他人と違う行動を取ることを恐れていては、何も新しいことはできません。

 それでもあなたの行動が理解されないのであれば、そんな会社は辞めてしまった方がよいと思います。誰もが起業家として会社を立ち上げる必要はありませんが、少なくとも「この人とならイノベーションを起こせる」と思えるビジョンと起業家精神を持った経営者がいる会社に転職することは、誰にでもできます。