“脱落組”は“妖精さん”へ

 そして50歳くらいになると、突然その格差が目に見える形で突きつけられます。その第1弾は「早期退職制度」です。最近多くの大企業で管理職を対象とする早期退職制度が話題になっています。

 もちろん多くの場合、誰でも応募できるものではあります。ですが、実際は、多くの企業の人事部が対象者リストを作成しており、いわば成果の出ない管理職を狙い撃ちにしているのです。

 次に来るのが「役職定年」です。多くの管理職は50歳、52歳、55歳で「役職定年」を迎え給料が30%以上下がります。ところが、その時点であるランク以上に出世している人は対象にはなりません。もちろん収入も減りません。一般的な大企業では、この時点で収入が減らされることなく「生き残っている」同期社員は1割以下です。この1割以下の生き残り組と、9割超の脱落組には大きな収入格差(もちろん何十倍ではありませんが…)が生じます。格差は収入だけではありません。それ以上に大きな「やりがい格差」が生じるのです。

 生き残り組は、会社の幹部として、マネジメント層として、より大きな視点で、会社の経営に携わっていくことになります。長く働いてきた会社を背負っていく感覚。まさに会社員人生の醍醐味を味わいながら、より大きな責任を担っていきます。収入もそれ相応に増えていきます。ヒラ社員時代には考えられなかった権限や自由度を手にして、経営にまい進していきます。

 一方で脱落組は、一社員として、あるいは子会社の管理職として、残りの会社員人生を「消化」していくことになります。どの大企業も現行65歳まで、近い将来、政府要請による定年延長が実現されれば、70歳までの雇用機会を提供してくれます。しかし、収入も権限も、そしてなんと言っても、仕事をしている醍醐味がどんどん小さくなっていきます。そういう事実と折り合いを付けて、マイペースで生きていくことになります。

 最近ではこういうおじさん・おばさんを若手が「妖精さん」と呼んでいるそうです。仕事に対する貪欲さや向上心を失い、競争心もなくなって達観している脱落組は、まるで仙人か妖精のようにみえるそうです。

日本は実力社会ではないが、復活のチャンスもない

 近年、この両者の違いはさらに大きく開いてきています。大企業で社長や副社長クラスまで駆け上がった人には、企業を離れた後も様々な機会が与えられます。社外取締役や業界団体の理事、あるいは実務家としての大学教員や、公的機関における民間登用ポジションなど。政府の委員会で活躍する元経営者もたくさんいます。

 つまり60歳代後半になっても、70歳代になっても、場合によっては80歳代になっても仕事の依頼が来る人たちがいます。一方で、妖精さんたちは、退職後は年金暮らしとなります。最近は60歳代の起業が年代別の企業数のトップと聞きます。しかし多くの方は社会からリタイアすることになります。

 当然この両者の生涯の収入格差はかなり大きくなります。

 日本は米国ほどの実力社会ではないし、格差も少ないから大丈夫だと思っているみなさん。もちろん中島聡さんが言われるような米国の実力主義ほど厳しい競争ではないかもしれません(関連記事「実力主義の米国で生き残れる日本人はわずか、されど…」)。そして40歳前にはあまり格差は感じないかもしれません。

 しかし人生80年時代の今、50歳から可視化されるこの大企業内格差は、なまじ同格で30年余り過ごしている分、厳しいものとなります。そして成功者に対する怨嗟(えんさ)嫉妬の原因となります。リタイア組がリベラル的な主張に傾きやすいのも、反権力を叫ぶ人が多いのも、こういう背景があるからではないかと感じています。

 すべての人が生き残り組になれるわけではありません。しかも優秀だから残れるというわけでもありません。運や縁、社会情勢や景気という自分ではどうしようもない要素も関係します。ただ、企業の中だけで人生を完結させていると、脱落したときに逃げ場がなくなります。そういう意味では、繰り返し復活のチャンスのある米国よりもリスクは大きいかもしれません。

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