前回「圧倒的な説得力! プレゼン資料より『プロトタイプ』」は中島聡さんがプロトタイプのお話をされていたので、同様の話として、新しい商品やサービスを企画する際のマーケティングの話をしましょう。
「顧客の声を聞け」
「データに基づいて仕様を決めろ」
「マーケティングリサーチの結果がすべて」
「βテストの反応を企画に生かせ」
などは商品開発やサービス開発の基本だと言われます。
でも僕はコンサルティング会社などによくいる「マーケティングの専門家」という人に会って、実務として商品やサービスの企画の話をしたときに、感銘を受けたことがあまりありません。
マーケティングは当たり前か
そもそもマーケティングって何でしょうか?

狭義には商品またはサービスを購入するポテンシャルのある顧客候補に対してブランディングやマーケティングコミュニケーションなどを通じて購買行動やサービス利用に働きかける行為と規定されています。
なるほど、どこの企業でもやっていることだな、と思われる方が多いのではないでしょうか。
確かに、こう定義される仕事は、当然やらなければいけないことのように思えます。けれども、この仕事をやっていればすべての企業が失敗しない、というわけではなさそうです。特にIT(情報技術)の世界においては、とりあえずやってみて顧客の反応を見ながらやり方を変えていくと手法が普通に取られています。
ものづくりの世界においても、スティーブ・ジョブズ氏やイーロン・マスク氏がマーケティング理論を忠実に守っているようには見えませんし(結果そう分析できたとしても)、「自分の作りたいものを作っている」と宣言しているイノベーターはたくさんいます。
ユーザーは手にしていないものを評価できない
そう、もうお気づきになったかもしれませんが、ITやイノベーションの世界では、伝統的なマーケティング手法が通じにくいのです。もちろん市場調査は必須ですし、販促戦略も重要です。ですが、ユーザーの声を聞きすぎるとイノベーションは起こしにくいのです。
ユーザーは手にしていないものを評価できません。GPS(全地球測位システム)も、おサイフケータイも、生体認証も、スマホの全画面タッチスクリーンですら、商品投入前に実施した市場調査では支持率が低かったのです。その理由は、その商品やサービスが出る前にそれがどんな効用をもたらすのかを想像することは難しく、また想像できる範囲も限られるからです。
一方で懸念はたくさん浮かびます。GPSで位置が特定されると危ないんじゃないか、おサイフまでケータイと一体化したら落としたときが大変だ、生体情報を盗まれたらどうしよう、タッチスクリーンだとネイルが邪魔で文字が打ちにくいんじゃないか……
冒頭で定義したマーケティングは、既に存在しているものやサービスの評価には当てはまるかもしれませんが、まったく新しいものには対応できないケースが多いのかもしれません。
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