独シーメンスも、「ピクチャー・オブ・ザ・フューチャー」と名付けた、今後10年先を見据えた独自の長期予測を戦略のベースとする。予測作成の専門部隊を持ち、例えば02年の時点で現在の産業界におけるIoTの成功を予見していたという。
国内では、かねてオムロンが同じく長期未来予測を軸に経営。創業者の立石一真氏は1970年に発表した「SINIC理論」(SINIC=Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution)をベースにした未来予想図で、「変化の激しい時代だからこそ背骨となる羅針盤が必要」との方針を示した。
ゴールを「100メートル地点」にしては、負ける
五輪の水泳で何度もメダルを獲得したアスリートは、例えば100メートル競技に臨む際、ゴールを100メートル地点でなく「壁にタッチし振り返って掲示板を見た時点」とイメージする。脳科学の観点から、100メートル地点に設定してしまうと、脳がラスト10メートル地点で「もう少しでゴールだ」と判断してしまい、気が緩む。ゴールのイメージをさらに先に置けば、残り10メートルの地点は「まだ道半ば」となり、集中力が落ちないというわけだ。
会社組織もまた、脳の集合体。10年後に必要となる技術やノウハウは、10年後だけを見据えても生まれない。20年、30年、100年後の未来を展望して初めて生まれるのではないか。
実際、産業界の中にも、そうした考えを持つ人がいる。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長もその1人。この10月24日、小林氏は米国・アリゾナの大地に降り立った。アリゾナ州立大学と同社グループが共同で設立した、ある研究開発拠点の記念式典に出席するためだ。

その名は「The Global KAITEKI Center」。まさに「100年先の世界と地球」を見据えた技術やノウハウを生み出すために設立された研究所だ。
具体的には、①未来社会での(企業)価値の可視化、②化学産業と循環型経済の未来、③将来の食とフードロスの削減、④将来の都市設計と材料開発という4分野で研究を進める。横断して貫くテーマは「持続可能性」。アリゾナ州立大が世界トップクラスとされる研究分野である。
小林氏が考える「100年先の世界」のイメージは、環境汚染による滅亡の恐れ。「汚れてしまった地球の悲鳴が聞こえているか。その悲鳴に耳を傾けられない経営者や権力者は意味がない」。小林氏は常々こう話す。だからこそ持続可能性が高い社会を実現し、100年先の世界中の企業や人々に絶望でなく、「快適さ」を届けたい。そんな思いを込めて日本語のKAITEKI(カイテキ)を名称に入れた。理想が現実のものとなり、4つの持続可能性への技術が完成すれば、それはそのまま100年後の会社の繁栄にもつながる。
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