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一方でイノベーションが求められます。企業はどう向き合えばいいのでしょうか。

野中氏:市場経済、自由経済を広めたのはアダム・スミスの『国富論』でした。この行き着く先は株主価値の最大化と考えられていますが、実はスミスは国富論の前に『道徳感情論』を書いています。エシックス(倫理)を大切にし、共感の重要性を説いて倫理観のある資本主義を唱えたのです。私はこれを復活させないといけないと考えています。二者択一の議論では、いかに相手を批判するかという立場になります。相手の視点に立って自分の考えを組み込み、対話しながらさらなる共感をつくり、アートからサイエンスを実現する。さらに重要なのは社員の復権です。社員は会社の資源ではなく、モノを生み出す主体です。マネジメント理論の再構築が必要です。

 ホンダは、人間と人間が暗黙知を共有し、徹底的な知的コンバットをして、次々に面白いコンセプトを出してきました。飲んだり、雑談したり、ある種の余裕の中でキラッと光るものを見つけ出し、新たな意味づけ、価値づけをしていく。

宗一郎&藤沢のペアがキーワード

 3日3晩泊まり込みで語り合う伝統の「ワイガヤ」はその典型的な手法です。最初は葛藤の塊ですが「そもそもなんのために生きているのか」といった議論まで掘り下げると「こうとしか言いようがないよな」という本質が見えてくる。徹底的にスクラムを組み、プロトタイプにして量産に持っていく活力こそがホンダの力でした。ただ、形式論理に落ち込んでしまえば、知的コンバットの場がなくなります。そして、面白いアイデアもいろんな角度から分析されて角が取れ、妥協の塊になって面白いものでなくなる。「分析まひ症候群」に侵されていると言えるのではないでしょうか。

なぜホンダはイノベーションを生み出す企業になれたのでしょうか。

野中氏:「ペア」がキーワードです。宗一郎さんには藤沢武夫さんという最強のペアがいました。藤沢さんは文系で、問題が起こると歴史の回顧録を読みまくる人でした。現場感覚に秀でた宗一郎さんと、歴史観と哲学を持つ藤沢さん。異質な2人の共感の上に新たな価値づけが起こり、創造性が発揮されました。対立項を取り上げ、徹底的に戦いながら共感を深くして本質を追究していく。このトップの示した想いや本質にミドルが共感することで、ホンダの体質ができていったのです。

 ただ、組織が複雑化するにつれ、あらゆる問題がプロジェクトリーダーに集まるようになりました。そうなると、ミドルは疲弊します。そして、数値をベースにした生産効率を追求するようになる。マイクロマネジメントが広がって自由度がなくなると、忖度(そんたく)し合いながら並みのイノベーションしかできない組織となってしまいます。