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 ホンダが改革に踏み出している。研究所、サプライヤー、生産拠点を再編し、クルマづくりのあり方を改めて設定する大工事だ。ホンダは「イノベーションを起こす企業」として戦い続けることができるか。長年ホンダを研究し『本田宗一郎~夢を追い続けた知的バーバリアン』の著書もある野中郁次郎・一橋大学名誉教授に、ホンダに内在する強みを語ってもらった。

これまでの記事
(1)ホンダらしさは数値より「柴犬」 新型フィットの決断
(2)宗一郎誕生日にワンツー ホンダF1が負う使命
(3)「グッバイ!ホンダ」 英城下町に広がる衝撃と諦め

[のなか・いくじろう]  1935年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、富士電機製造を経て、カリフォルニア大バークリー校博士。82年に一橋大教授となり、富士通総研経済研究所理事長など歴任。イノベーションを引き出す「SECIモデル」を考案、知識経営論の第一人者として知られる。著書に『失敗の本質』『知識創造の経営』など

「イノベーション企業」というホンダのイメージが変わってきた気がします。

野中郁次郎・一橋大学名誉教授(以下、野中氏):私が持つホンダのイメージを示す写真があります。創業者の本田宗一郎さんがテストコースでしゃがみこみ、地面に手を当てている写真です。

 ライダーと同じ高さに目線を置き、手で振動音を聞き、ガソリンの匂いを嗅いでいる。まさに「共感」、全身全霊で相手になりきって感じるということです。まず相手の視点に立つということが大事です。宗一郎さんだけでなく、周囲もテストコースで宗一郎さんと同じ文脈を共有している。そんな仲間がお互いに意見を出し合い、真剣な対話から新たな概念をつくっていく。最初は言葉にならないのでポンチ絵でいいのです。ワイワイやってコンセプトをつくる。さらにスペック、理論、製品にして、修正を加える。これが知を創造するイノベーションの本質です。

 ホンダの歴史において、製品開発の基本となるのはプロジェクトリーダーです。企業はとかく部門ごとの「サイロ」に陥りがちですが、ホンダをはじめ、1980年代の元気だった日本企業は「スクラム」を組んでいました。組織がバラバラではなく、重なり合っているのです。仕事を終えて次につなぐのではなく、それぞれの立場に軸足を置きながら、納得がいくまで真剣勝負を重ねる。共感をベースに本質を求めて知的コンバットをするのです。

 トップダウンでもなく、ボトムアップでもない。「ミドルアップダウン」というスタイルがホンダにはあったのですが、ミドルが劣化してきたことで、平凡な車が出るようになりましたね。

劣化してしまったのはなぜですか。

野中氏:背景にあるのは、何でも過剰に分析する風潮でしょう。ホンダに限りませんが、これは深刻な問題です。サイエンスやデータ偏重によってオーバーアナリシス(過剰分析)、オーバープランニング(過剰計画)、オーバーコンプライアンス(過剰法令遵守)が常態化し、ミドルから野性味、本能を奪ってしまっています。数字中心のがんじがらめの「形式知」による支配は、人が本来持つ「暗黙知」や「身体知」を劣化させてしまうのです。