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 英国生産撤退に研究所の組織再編、長年の課題だった系列部品メーカーの日立系との統合。「ビジョンが見えない」など厳しい声もあった八郷隆弘社長が、就任5年目を迎え次々に手を打ち始めた。創業71年。順調に成長を続け売上高は15兆円を超えたホンダ。ただその裏側では、大企業病や革新的な商品の欠如、四輪事業の収益力低下など課題が積み上がっている。日本を代表するイノベーターは輝きを取り戻せるのか。再起動に向けた現場の動きを追う。

「LPL(開発責任者)の言っている内容が分からない」──。

 2020年2月に発売を迎える4代目「フィット」の開発責任者、本田技術研究所の田中健樹氏は何度もメンバーのこんな声にさらされてきた。「こだわりの強いメンバーばかりで・・・」。田中氏はそう苦笑する。

4代目「フィット」のLPL(開発責任者)、本田技術研究所の田中健樹氏

 たとえ自らの上位にいる役職者が相手でも、納得がいかなければ食ってかかる。それはホンダに染み付いた文化のようなもの。歴代の社長にも上司に抵抗したエピソードがいくつもある。「研究所で『お前変人じゃないな』というと、言われた側はだいたいムッとする」。とある役員はそんな言葉で社風を表現する。

東京モーターショーで公開された新型フィット(写真:Tomohiro Ohsumi/GettyImages)

 田中氏が4代目フィットのLPLを任されたのは15年初頭のこと。田中氏は3代目のフィットの開発にも携わっていたこともあって、LPLを任されるに至った。立ち上げ時点の開発チームは10人程度しかいなかった。寝食をともにしながらクルマのコンセプトを議論するいわゆる「山籠もり」で、田中氏はこう提案した。「心地よさをコンセプトにしよう」

 「心地よさ」とは、(1)運転者の視界、(2)シートの座り心地、(3)内装、(4)乗り心地の大きく4つ。必ずしも数字で定量化できる領域ではない。それだけにチームからは「どうやってクルマを作ったらいいんですか」といった疑問の声が出た。燃費や車室空間の広さなどは数値目標を掲げることができる。しかし、心地よさはあくまで感性に訴えるもの。普段、理詰めでモノを考えるエンジニアたちには作るべきクルマが見えてこないというわけだ。