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楽天経済圏は、楽天の多種多様なサービス群からなるエコシステムのこと。現在その勢いは、Amazonやメルカリのといった競合企業の躍進により薄まりつつある。そんな楽天経済圏と、楽天の直近の動向を、過去のニュースを参照しながら紹介する。

楽天経済圏とは

 楽天経済圏とは、楽天が提供する多種多様なサービスで構成されている、経済圏のことだ。大手ECサイトの楽天市場、そして楽天カードや電子マネー、銀行など、楽天のサービスは多種多様。利用者は、これらのサービス群を利用することで、「楽天ポイント」を効率よくためることが可能だ。また、楽天側はサービス同士の相乗効果を享受することができる。

「ゴールドラッシュ」は続く

 2015年当時、楽天は楽天経済圏の海外展開を推進していた。その勝算を、三木谷会長兼社長は「単品の強さではない」という点だと述べる。これは、1つのサービスだけでなく、複数のサービスを顧客に利用してもらうことで、様々な相乗効果が生まれることを意味する。

 また同氏は、「楽天は日本だから成功した」という声に対しては以下のように答える。「少なくとも台湾では、楽天経済圏が着々と形成されつつあります。カードビジネスは提携先経由ですが米国でも出足好調ですし、(無料通話メッセージングアプリの)バイバーも確実にユーザーを増やしている。世界に楽天経済圏を広げるための『パーツ』がそろいつつあると感じます」。

正念場の楽天経済圏

 実際、2015年3月に台北市内で開催された「台湾楽天トラベルカンファレンス」に参加した地元ホテルの担当者は、以下のように述べている。

 「楽天の担当者とは毎日連絡をとっています。過去のデータを基に、どんな内容の宿泊プランを打ち出すべきかアドバイスをくれる。旅行予約サイトは他にもあるが、ここまで親身に相談に乗ってくれるのは楽天だけ」。

 台湾への海外からの観光客数は、当時右肩上がりで伸びており、ホテル予約サイトの需要も増えていた。中でも、2015年で台湾進出5年目を迎えた楽天トラベルは、既に台湾の5大旅行予約サイトの一つに成長していた。

楽天、携帯電話参入で挑む「背水の陣」

 そんな楽天は、2018年当時、アマゾンジャパンやメルカリの台頭で、国内における楽天経済圏の再強化策を課題として抱えていた。同社はその切り札として携帯電話事業への参入を決断。6000億円もの資金を投じる大きな賭けに出た。ポイント連動などで顧客囲い込みを狙う一方、物流機能の向上やサイトの刷新など、足場固めも急ぐ。

 楽天が携帯電話事業に新規参入すると表明したのは2017年。2019年10月には基地局などの設備を持つ携帯事業者となった。なお、NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクの大手3社に続く「第4軸」が誕生するのは約13年ぶりのことであった。2014年からドコモから回線を借りて、格安スマートフォン事業を展開してきたが、最大6000億円の資金を投ずる自前での展開は大きな賭けであった。

相次ぐ楽天市場離れ 理想に現実追いつかず

 さまざまな領域でサービスを展開することで、経済圏を広げようとしてきた楽天だが、2020年に入り、ECサービスにおける中小出店者の離反を招いていた。携帯事業はリスクを抱えるだけに、EC事業でつまずけば「楽天経済圏」の理想も遠のく。

 その震源は、当初2020年3月18日に一斉スタートの予定だった「送料無料ライン一律3980円」サービスだ。離脱は中小店舗にとどまらない。同年2月にはワークマンや「ディズニーストア」、3月には「カルディコーヒーファーム」など大手も楽天市場の店舗を閉じた。ある古参の出店者は「楽天の役割はもう終わった。これからは自社ECを強化する」として「楽天卒業」の真相を打ち明ける。

幹部流出、送料問題…… 「第2の創業」前に混乱の連鎖

 混乱は、EC事業に止まらない。楽天の常務執行役員と、携帯事業会社楽天モバイルの代表取締役副社長という要職を務めていた徳永順二氏は、2020年3月31日付で楽天を退職し、4月1日付で建設業界向けに金融分析プラットフォームを提供するランドデータバンク(東京・港)の社長に就任したのだ。

 大勝負となる携帯事業の本格立ち上げ前に通信業界を去ったキーパーソン。幹部流出はそれで終わらない。徳永氏の退社より前に、楽天の格安スマートフォン事業を長く取り仕切ってきた人物も去った。楽天モバイルの常務だった大尾嘉宏人氏だ。

 櫛(くし)の歯が欠けるように1人、また1人と楽天を去っていく──。そんな状況が続いていた。

値下げの旗手になれるか 楽天の携帯参入、退路なき「世界初」

 そんななか、楽天モバイルが携帯電話の商用サービスを開始した4月8日朝、同社の三木谷浩史会長兼CEO(最高経営責任者)はツイッター上で「『Rakuten UN-LIMIT(楽天アンリミット)』を2.0へとバージョンアップする」と宣言すると、3月に発表した料金プランを早くも改定すると明らかにした。同社の通信回線以外では月間2ギガバイトしか高速通信できないという制約を緩め、5ギガバイトに引き上げたのが主な内容だ。

 サービス開始当日に料金プランの内容を変更するという異例の措置。背景にあるのは消費者に広がった楽天モバイルに対する「落胆」だ。

 同社が自社回線を展開するのは当初、東京23区と大阪府、愛知、神奈川など都市圏の一部だけだった。その他の地域やビル、地下街などではKDDIの回線を借りる「ローミング」と呼ばれる方式でカバーする。高速データ通信が「使い放題」のサービスを全国で提供としながら、多くのエリアで2ギガバイトしか使えないのが弱点だった。

「独裁風集団経営」の実像 楽天は雑草魂を取り戻せるか

 これまで紹介してきたように、楽天は既得権益や規制の壁を壊すことを訴え、挑戦の姿勢を示してきた。

 そんな同社において、今でも三木谷氏の存在感は絶大だ。創業者として、そしてプロスポーツチームのオーナーとして楽天の「顔」となっている三木谷氏による独裁的な会社とのイメージも強い。しかし実態は違いそうだ。ある楽天幹部は「マイクロマネジメントしているのは携帯電話事業くらいで、日常のオペレーションはほかの経営陣に任せている。独裁風の集団経営だ」という。楽天市場の戦略に関する会議には、三木谷氏が出席しないことも珍しくない。

 三木谷氏を中心に、理念を共有しながらチームで大きな目標に向かって突き進む。これは楽天の創業以来のカルチャーと言っていい。しかし、社員約2万人を抱える大企業となり、外部からのエリート集団が三木谷氏の脇を固めるいま、組織として雑草魂を取り戻せるかどうかが、楽天における「第2の創業」の成否を握るだろう。

最後に

 ここまで楽天経済圏とは何か、そして楽天のここ数年の動向を、過去のニュースを参考に紹介してきた。様々なサービス群からなる楽天経済圏は、2015年ごろは勢いがあった。しかし昨今は、Amazonやメルカリといった競合の参入もあり、存在感が薄れてきている。今後、楽天経済圏はどのような道を歩むのか。今後もその動向から目が離せない。

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