一般に大学などの「教養教育」を意味するとされる「リベラルアーツ」。しかし単なる教養ではなく、人間としての総合力を高め、ビジネスにおいて多様性やイノベーションを支える必須知識としてリベラルアーツを評価する動きが見られる。今回はリベラルアーツを理解するためのトピックを振り返る。

多様性とイノベーションを支える「リベラルアーツ」

 「リベラルアーツ」とは、大学の「教養教育」(いわゆる文系的素養)を指す言葉だ。ただし専門教育の前段階として位置付けられる旧来の教養教育とは少し異なる。幅広い知識を身に付けることで異なる考え方やアプローチ方法を理解できるようになるための、人間としての総合力を高めることを目的とした「学び」を指しているとされる。

 リベラルアーツに含まれる科目は大学によって多少異なるものの、一般的には人文科学や社会科学、自然科学などの分野であることが多い。例えば文学、哲学、倫理、宗教、心理、政治、経済、社会、歴史などはその典型だ。コミュニケーションや情報などの分野もリベラルアーツの一部といえる。

 これまでビジネスの現場ではリベラルアーツが軽視されることも多かったが、今日では多様性やイノベーションを支える教養として評価する動きも見られる。この記事ではリベラルアーツをめぐる識者や経営者の見方について過去記事から紹介する。

イノベーションを支えるのは実は「文系」

 今日、プログラミング教育をはじめとする「理系」科目に比重を置く大学が増えている。理系科目を学ばなければ、就職やキャリア形成に不利という声も聞かれる。

 しかしシリコンバレーのベンチャーキャピタリストたちは、イノベーションのためには文系・理系の両方が必要だと語る。実際、米フェイスブック(現メタ)の創業者マーク・ザッカーバーグ氏はプログラマーであると同時に、古代ギリシャ語、ラテン語、中国語を学び、ハーバード大学で心理学を専攻し、他の学問にもかなりの素地がある「文系」でもあるという。そして、テクノロジー系企業の急成長を見ると、その背景には技術面だけでなく、デザインや心理学、その他の学問から得た洞察があるというのだ。

1999年、小林陽太郎が語った「企業の社会的責任」

 富士ゼロックスの元会長・小林陽太郎氏は、かつてのインタビューの中でリベラルアーツの重要性を強調している。一方で戦後日本でリベラルアーツが軽視されてきたことについては「70%は企業の責任」だという。

 そして国や社会、企業のレベルでも、仕組みやシステムが足らなかったのは判断力、哲学、理念といったものがないからだとする。企業の社会的責任みたいな部分が市場主義だけで解決できるかというと、決してそうではない。市場主義を超えるには人類の古代からの英知が必要で、「これまでの教育を受けた人たちも、今からやって遅すぎるということはないのだから、勉強をしなきゃいけない」と小林氏は語る。

「公平な観察者」の声に耳を傾ける感性を

 日本フィランソロピー協会理事長の髙橋陽子氏も、リベラルアーツの重要性を強調している。リベラルアーツを学ぶことで「人権や倫理観といった本質的な感覚」と、自分ならどうするかと考える「公平な観察力」が養われるからだ。

 高橋氏によると、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・統治)が急速に浸透する現代において、企業はもっと「公平な観察者」の声に耳を傾ける必要があるという。一般社会の感性に歩み寄り、理解し、それに基づいて行動できる企業が、社会に必要とされていくからだ。

日本電産永守氏×MS&AD柄澤氏 「人づくりをつくり変える」

 日本電産の永守重信会長と、MS&ADインシュアランスグループホールディングスの柄澤康喜会長による対談記事。この中で柄澤氏は、「イノベーションは知と知の融合」と述べたうえで、その実現のためには、リベラルアーツも重要な要素であり、宗教、歴史、哲学、芸術といった素養を持った社会人を育てる必要があるとした。

 一方の永守氏はリベラルアーツが必要であることを認めつつも「専門性」を強調する。(最近の大学卒業生は)専門性がない。リベラルアーツの方はどうかというと、それもない。「一流大学を出た」というだけだとする。専門性の重要性を強調しながらも、いろいろな意味での教養も身に付けて、世界のどこに行ってもちゃんと意見を言える積極的な、プロアクティブな人材を出していく必要があるとした。

最後に

 教養教育と表現されることも多い「リベラルアーツ」。いわゆる「文系」科目全般を指しており、戦後の日本では、特にビジネスの世界では軽視されてきた。しかしシリコンバレーの起業家たちは専門性だけでなく、リベラルアーツも身に付けているという。日本でもリベラルアーツの重要性が説かれ始めている。そうした中から多くのイノベーターが現れることになるのだろうか。

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