現代日本のビジネスにおいて、働き方改革を意識せずにはいられない。人手不足の現在、働き方改革が進んでいて、働きやすい環境にあるかは企業にとって重要なステータスだ。では、そもそも働き方改革とは、何を目指してどのようなことをするものなのだろうか。また働き方改革を推し進める各企業は、どんな課題に直面しているのか。過去記事をたどりながら、それらの疑問について考えてみよう。

社会に浸透した働き方改革とは

 働き方改革の理解を深めるには、まず何を目指すべきなのかを知っておくべきだろう。日本は、空前の少子高齢化社会となっている。人口の減少と相まって、このままでは日本の国内総生産は下がる一方だ。

 そのため政府は、一億総活躍社会を掲げ、働き方改革を推し進めている。働き方改革といえば長時間労働の規制をイメージするが、それだけにはとどまらない。働き方改革では、長時間労働の改善を含め、厚生労働省では以下の7つを具体的な取り組みとして挙げている。

  • 非正規雇用の待遇差改善
  • 長時間労働の是正
  • 柔軟な働き方ができる環境づくり
  • ダイバーシティの推進
  • 賃金引き上げと労働生産性向上
  • 再就職支援と人材育成
  • ハラスメント防止対策

 これらの目標を達成することで、老若男女を問わず働けて、働きたいという人が活躍できる社会を目指しているのだ。しかし、働き方改革には、多くの課題が待ち受けている。

長時間労働の規制だけが改革ではない

 2017年、安倍晋三首相は経団連の榊原定征会長と日本労働組合総連合会(連合)の神津里季生会長を首相官邸に呼び、残業時間の上限規制について、繁忙月は例外として「100時間未満」とすることを要請した。

 「月に100時間」この残業時間は土日を除く営業日で換算すれば、おおむね1日5時間程度となる。19年4月に施行された働き方改革関連法では、原則時間外労働は月45時間まで、繁忙月は例外として月100時間以内(労使協定が要件)とされた(中小企業での適用は20年から)。

 しかし経済学者の八代尚宏氏は、働き方改革で残業時間を規制するだけでは、不十分だと語る。そもそも残業時間に割増賃金を支払う現行の規制は「残業をすることでそれに見合った製品が生産できる」ことを前提にしている。しかし、個人単位で多様な質の高いサービスが期待される研究者やプロジェクトの企画者等の高度専門的な業務では、労働時間の長さよりもアウトプットの質が重視される。そうした労働に対して、労働基準監督行政が「深夜・休日の割増残業手当を守らない労働基準法違反として摘発し、働き方の改革に結び付けなかった」と八代氏は言う。

形だけの「働き方改革」で生まれる「ツケ払い帰宅」

 経営コラムニストの横山信弘氏は、「本来納めるべき成果を納めず、やるべきことをせず、時短と称して早く帰ってしまう」ことを「ツケ払い帰宅」と名付けた。

 働き方改革を進めなければ、少子高齢化による労働力人口の減少や、グローバル化の進展による国際競争に打ち勝つことはできません。しかし、「働き方改革」や「ワークライフバランス」といった言葉に気を取られ、働くことの本来の目的を忘れてしまう人がいるというのです。

 結果につながる行動をやり切っていないのに「定刻ですから」と言って帰ろうとする。働き方改革は必要でも、「真面目にやっている同僚や、上司がストレスをためるような働き方改革は改革になっていません」(横山氏)。

働き方改革に求められるマインドの革命

 「罰則付きで残業時間を規制するなど、これまでにない法改正であるのは事実ですが、日本の職場に根付いた『残業体質』が一気に変わるかどうか、疑問ですね」。働き方改革の支援サービスを行うヒトラボジェイピー(東京・目黒)の永田稔社長はこう語る。残業に対する規制といった、ルール上の改革を進めても、大切なのは日本の職場に根付いた「残業体質」を変えられるかどうかが大事だという。

 ヒトラボジェイピーが受託した15社2000職場では、業務の複雑度合いや非定型度合いが高くなっていることが分かっている。こうした状況では、社員のマインドに自分の仕事は自分でこなしたいという「抱え込み傾向」や、何としても自分だけで頑張るという「独力遂行傾向」が見られるという。また、長時間働いていることがプラスに評価されると感じる傾向もある。

 一方で「働かせ方」にも改革が必要だ。上司が「過剰チャレンジ」を求めているというのだ。同様に「過剰確認」も少なくない。そして、調査によると、長時間労働と仕事の満足度が比例していることが分かっている。こうした風土にメスを入れない限り、日本の長時間労働はなくならないというのだ。

働きやすさと「やりがい」の両立で働き方改革を

 GPTWジャパン(東京・品川)の代表、岡元利奈子氏は「働き方改革」が進んでいるのに、従業員の「働きがい」が上がっていないことを危惧している。現在の働き方改革の多くは「時間」と「場所」に焦点を当てた施策。働き方改革はダイバーシティの浸透も後押ししており、この点は岡元氏も評価している。だが、その一方で、従業員の「働きがい」が一向に上がっていないというのだ。

 「働きがい」とは、「働きやすさ」と「やりがい」の両立のこと。現在の改革では「やりがい」が見落とされているというのだ。やりがいを向上させる取り組みや成果は、目に見えにくく、マネジメント(管理)の手掛かりが見つけられないのだ。

 働きやすさもやりがいもない職場で、働きやすさだけを改革すると「仕事へのモチベーションがほとんどなくても、居心地がいいため、従業員は何となく居続けてしまう」。このような環境では、やる気がある人は白けてしまい、以前よりも悪い職場ができあがってしまうのだ。

働き方改革に非協力的な層にどう対処すべきか

 働き方改革のネックは特定の年代でなく、全階層が抵抗勢力になっている可能性がある。状況を打開するには、改革を妨げている抵抗勢力ごとに細かく対策を練ることが必要だ。

 コニカミノルタジャパンでは、働き方改革の一環として、「保管文書ゼロ化」を目指した。その際、一般に「享楽主義で、面倒な改革には消極的」とされる中間管理職などの抵抗勢力への対策として、改革の実行役を、ミドルより下の現場のリーダー格にした。この年代には、リスク回避優先思考の人がいる一方で、強い自立・開拓精神を持つ有能な人材もいる。

 さらにコニカミノルタジャパンでは一工夫し、実行役の“ご意見番”として、1度会社を退いたベテランを改革担当の専任者として再雇用した。現場のリーダーたちは上下の階層と相性が悪いといわれるが、一昔前のベテランとは親和性があるという。

 こうした工夫もあり、コニカミノルタジャパンの改革実行役たちは、ミドルをも巻き込み、書類の約86%を削減するのに成功した。

働きやすい職場づくりで過去最高益

 ブラック企業のレッテルを貼られた印象の強いゼンショーホールディングス(HD)。13年冬。すき家は世間の厳しい目にさらされた。深夜に店舗を1人で切り盛りさせる「ワンオペ」が常態化、それを狙った強盗事件が相次いだことがきっかけだった。

 これを受けて、14年から抜本的な労働環境の改善に着手。深夜営業の見直しや、ワンオペを禁止。人手が確保できない店については「24時間営業」への執着を捨てて、営業時間を短縮した。この結果、全店の6割に当たる1254店で深夜営業を休止することになる。深夜営業の休止は、経営効率が悪く、それだけで59億円もの利益を失った。

 そんな中でも「働き方改革」を継続。現場の声が本部に届きやすくなるように地域別に分社化し、様々な施策を矢継ぎ早に打った。現場の負担を考慮し、15年は新商品を減らした。2年連続で全パートの時給を上げ、社員が介護や子育てをしやすいよう休業規定も見直した。

 働きやすい職場づくりを続けたことにより、人材確保につながるようになり、深夜営業も9割以上で再開できるようになった。この結果、業績が回復し、15年度の最終利益は40億2600万円の黒字となった。16年には、ゼンショーHDの時価総額は外食チェーンでは日本マクドナルドに次いで、国内第2位に躍り出ることになった。

最後に

 働き方改革というと、労働時間の短縮を思い浮かべがちだ。しかし働き方改革を意味あるものにするには、働き方そのものを根本的に考え直すことや、働く人のマインドの変革、やりがいの喚起、改革を推進するための工夫、働きやすい職場づくりなど様々な施策が求められる。実際、成果を出している企業は、置かれた状況に合わせた努力や工夫をすることで、働き方改革を推し進めている。

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