現代社会は、情報通信技術の進展、交通手段の発達による容易な移動、市場の国際的な開放などによって、様々な分野でグローバル化が起きている。国内でも、2020年から始まる小学校における英語教育の必修化に象徴されるように、グローバル化を意識した人材育成は加速している。本記事では、こうしたグローバル化を巡る国内の動向や議論を、過去の記事をもとに紹介する。

グローバル化の加速がもたらす光と影

 資本や労働力が国境を越えて、経済的な結びつきが強まることがグローバル化だ。最近では非中央集権的な金融システムである「ブロックチェーン」などの出現によって、技術的な面からもグローバル化が進んでいる。世界のリーダー企業はグローバル化に対応できる人材育成に余念がない。

 一方、グローバル化によって移民問題などが起き、それにともない各国で極端なナショナリズムの動きが発生するなど、負の側面があることも事実だ。こうした問題はどう解決していくべきなのか。

真の“グローバル企業”とは

 真のグローバル企業とは何なのか。判断基準は大きく2つある。

 1つは、企業の世界各地域での売上高や利益だ。グローバル企業ならば、世界各地域の売上高は、その地域の市場規模や国内総生産(GDP)に応じて分散するはずだ。特定の国や地域の売上高が突出している場合、例えば6割を超えているような場合はグローバル企業とはいえない。

 もう1つの基準は、統治体制だ。各国の営業や開発、販売部門が対等に配置されており、どの国でも各部門のマネジメント権限や人材評価の基準は同じであることが必要だろう。日本では国内外に営業、販売などの部門を設けているが、日本と他国の部門が主従関係になっている企業が多い。

日本企業の取り組みは「グローバル化」ではなく「国際化」?

 日本企業がこれまで取り組んできたのは「グローバル化」ではなく「国際化」にすぎない、と渥美育子氏は強調する。グローバル化と国際化は似ていながら異なっており、日本を起点に世界を考えているのが国際化であるという。海外からどう見られているかを考えていないのだ。

 さらに同氏は、企業経営を「幕の内弁当」に例え、英語は「おかず」の1つにすぎないとする。幕の内弁当は器と中身がセットとなって完成するのに、日本企業は全体像が見えないまま議論していると指摘する。どのような「おかず」を器の中に入れていくかが問われているのだ。

グローバル人材育成はなお途上

 現実は厳しい。

 日本企業にとって、グローバル化は避けて通れない課題にもかかわらず、海外現地法人を経営できる人材は圧倒的に不足している。グローバル・エデュケーション社長の布留川勝氏は、こうした状況を是正するにはまず、OJT(On the Job Training)からの脱却が必要だと語る。

 海外現地法人の経営を担う人材には、プレゼンテーションなどのコミュニケーション能力や異なる言語・文化への対応力が求められる。ろくな研修もせず、海外の住居を自分で手配したり、現地の人々と交流したりするだけで、海外でのビジネスに必要な資質が備わるわけではないのだ。

グローバル人材の不足は続く?

 積極的にグローバル人材の育成に取り組んでいる日本企業も存在する。ソニーは優秀な人材を選抜して研修し、重要ポストに登用する社内大学「ソニーユニバーシティー」を設立している。

 人材育成に海外のビジネススクールが関わっているケースも多い。三井物産や日立製作所などのプログラムは米ハーバード大学経営大学院が作成に関わっている。武田薬品工業や日産自動車は仏ビジネススクールのインシアード、資生堂やAGCはスイスのIMDといった具合だ。

 しかし、こうした育成プログラムを持っている企業はまだ少ない。既にある他社のグローバル人材・グローバルリーダー研修プログラムは参考になる。そうしたものを利用するなど、人材育成には工夫が求められている。

「グローバル」企業とは何かを整理する必要も

 世界中でうまく商売できている企業、すなわち「世界中からまんべんなく売り上げを得ている企業」を「真にグローバルな企業」とした場合、こうした企業はどのくらいあるのか。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は、この疑問を分析し、近年の国際経営学に大きな影響を与えた人物として、米インディアナ大学の重鎮、アラン・ラグマン教授を挙げる。

 2004年にラグマン教授が発表した論文では、ホーム地域の外からの売り上げが半分を超え、かつ、世界の主要3地域で、まんべんなく売り上げている企業は、9社しかなかったとした。うち日本企業はソニー、キヤノンのみだったのです。

 入山教授は「グローバル」という言葉を一人歩きさせないで、その意味合いをきちんと整理すべきだという。「強い多国籍企業が世界中の市場を支配している」という単純な考えに待ったをかける研究・論考が出てきているというのです。こうした視点からビジネスを考え直してみることも、有用ではないかというのが入山教授の提案なのです。

「ミクロの不満」が生み出した「反グローバル化」のうねり

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、そしてメキシコ国境の壁の建設。こうした政策を進めるトランプ大統領を中心とした、反グローバル主義の背景には何があるのか。

 みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、グローバル化による「マクロのメリット(経済全体の成長)」が優先される中で「ミクロの不満」が置き去りにされたことを挙げる。そうした不満が今、グローバル化の潮流において観察される「大きなうねり」となっているという。

反グローバル運動が強まっているのはなぜか

 反グローバル運動、保護主義が強まっているのはなぜなのか。ドイツのローランド・ベルガー名誉会長である、ローランド・ベルガー氏は、先進国の低所得層が、海外の労働者に職を奪われたと考えていることを挙げる。

 そして、トランプ大統領と米国人による反移民の姿勢が反グローバル運動を加速し、それが貿易戦争を生み、世界経済に深刻な脅威を与えていると見ている。保護主義によって経済活動が域内にとどまることによって、グローバル化で広がった人道主義による恩恵が失われることも危惧している。

グローバル化の流れは終わりを迎える

 水野和夫法政大教授は、著書『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社)で、グローバリズムの流れに逆行した、国を「閉じる」動きについて語っている。グローバル化によって特定の企業のパワーが大きくなり過ぎることや、増え過ぎた移民に対する不満などで、「閉じる」動きが出ているというのだ。

 一方で「閉じる」ことに反対する動きもあり、ヨーロッパや米国などでは、国内で双方の考え方が綱引きをしているという。そしてグローバリズムの弊害が表面化している原因は資本主義が迎えつつある「限界」だとする。資本主義はモノやサービスが足りないのが前提だが、現在はモノがあふれかえっている。こうした状況では、グローバリズムの弊害があらゆる形で表面化するのだという。

グローバル化より不安定な「スローバル化」が到来

 急速なグローバル化が落ち着き、緩やかになっていく状況を「スローバル化」という。「スローバル化」の時代には、各地域内でのつながりが強まる。しかし、その一方で、国際ルールは地域ごとに分断され、国際協調が失われ、グローバル化が生んだ負の遺産は解消されない。

 国際協調が失われるため、気候変動や移民、課税逃れの解決は一層難しくなる。また、中国が地域的覇権を掌握するのを加速させるともいう。スローバル化はグローバル化にも劣る、不安定なあり方だ。結局は、不満を拡大するだけだとする。

最後に

 グローバル化に対応するために日本の企業が取り組まなくてはならないことは多い。だが、その一方でグローバル化に対する反動が生まれ、世界貿易へ悪影響を与えつつある。それにより、グローバル化による恩恵を失うことにもなりかねない。そうした状況をどう考え、対処すべきなのか、問題は残されたままのようだ。

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