プログラミングスキルと、その前提となる論理的思考や創造性を育む「プログラミング教育」。将来のIT人材確保に向けて小学校でのプログラミング教育が必修化される一方、民間の教育機関や一般企業もそれぞれ独自の取り組みを進めている。今回はそれらの取り組みについて過去記事からピックアップする。

国も企業も注目する「プログラミング教育」

 プログラミング教育とは、プログラミングのスキルに加えて、プログラミングの基礎となる論理的思考力や創造性、問題解決能力等を育成することを目的としている。

 日本は欧米などと比較してプログラミングのスキルを持ったIT人材が不足しているという。経済産業省が2016年に発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」では、日本では30年に79万人(高位推計)のIT人材が不足すると試算した。

 これを受けて日本政府は、20年度より小学校でのプログラミング教育を必修化。民間の教育機関もプログラミング教育を新たな商機として、また一般企業も自社の競争力を高めるためにプログラミング教育を注目している。

 この記事ではプログラミング教育をめぐる国内の動きを過去記事から紹介していく。

デジタル庁、「民間100人」の危うさ

 日本のIT人材不足は深刻だ。政府は21年9月にデジタル庁を発足させ、100人規模の民間人材を非常勤の国家公務員として採用するとした。しかし民間でも「IT人材が不足している」と考える企業の割合が89%に達しており、人材確保には大きな困難が予想された。

早期教育にプログラミングは不可欠

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院のマイケル・クスマノ教授は、プログラミング教育を開始するタイミングについて「幼少期から始めることが大切」と語る。「どうすれば解決できるか」と思考する感覚を子供のうちから身に付けることで、大人になってから創造的な思考ができるようになるからだ。

 起業家に不可欠な創造性を育むという目的に限れば、プログラミングの専門家になる必要はない。多くのベンチャーでは、コンピューターやソフトウエアへの理解が必要であり、「プログラミングで訓練した思考回路があれば、試行錯誤を効率化できる」と語る。

プログラミング思考、遊びで養う 小学校必修化で教材開発が活発に

 小学校でプログラミング教育が必修化されたことを受け、教材開発が活発化している。ソニー・グローバルエデュケーション(SGE、東京・品川)のロボット・プログラミング学習キット「KOOV(クーブ)」、ユカイ工学(東京・新宿)が発売する「ユカイなパチパチブロックキット」、中国の教材メーカー、オボットが開発した「Xtron Pro(エックストロン プロ)」などはその一例だ。

やる気スイッチ第2の創業 幼児教育で1人を「深掘り」

 学習塾運営のやる気スイッチグループのYPスイッチ(東京・中央)が取り組んでいるのは、子供向けプログラミング教育「HALLO(ハロー)」の運営。子供たちがアプリケーション開発に生かせるスキル、課題解決力、自由な創造力を身に付けることを目指している。

 生徒はタブレット上でロボットのキャラクターを操作し、プログラミングを模した選択肢を選びながら学習していく。少子化が進む中、数千もの教室もある中学受験市場に比べれば、「競合がいない」と表現しても過言ではない幼児や小学校低学年向けの教育市場に注目してきた。その象徴といえるのが、プログラミング教育のハローだった。

文系社員も1日でアプリ制作。デジタル研修で何が変わる?

 企業向けのプログラミング研修も始まっている。中高生を対象にデジタル教育を手掛けてきたライフイズテック(東京・港)では、三菱ケミカルホールディングス、NEC、伊藤忠テクノソリューションズをはじめ医薬、広告などの企業でデジタル研修を担当してきた。

 デジタルに対する壁を崩し、企業が人材をどう育てていくかがテーマとなっている。研修の最初のステップはデジタルマインドの育成。デジタル人材に共通する思考のフレームを可視化、言語化して伝えることからスタートしている。

創造性を育む注目のSTEM教育“稼げる教育”に堕する危うさ

 小学校で必修化されたプログラミング教育はよくSTEM教育の一つとして位置づけられる。STEMとはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったものだ。このため数字や科学に強く、コンピューターを操れてプログラミングができる人材を育成することがSTEM教育とされることが多い。

 だが、STEM教育は本来、自発性や創造性、問題解決力などの能力を高めることを目的としたものだ。プログラミング教育はやもすると「即戦力・稼げる仕事ができる人材」を育てることになりがちだが、人間本来の能力を高めるという目的を忘れてはならない。

最後に

 深刻なIT人材不足の解消に向け、小学校でのプログラミング教育必修化をはじめ、官民のさまざまな取り組みが進められている。プログラミング教育は幼少期から始めるのが理想的とされるが、社会人になってから学べることも多い。ただし、プログラミング教育は単にプログラムスキルを高めることだけが目的ではない。創造的思考やデジタルマインドの育成も重要だ。今後もそうした視点からプログラミング教育を見ていくことが必要だろう。

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