ある人がその生涯に稼ぐ賃金の総額が「生涯年収」だ。近年の統計によると日本人の生涯年収は大卒の男性で2億7000万円ほどだが、女性や高卒者との格差は大きい。今回はこうした格差問題に加え、生涯年収が高いはずの大卒者をめぐる問題や識者の意見について過去記事から振り返る。

様々な要因で格差が開く「生涯年収」

 生涯年収とは、1人の労働者が生涯に稼ぐ賃金の総額を指す。独立行政法人労働政策研究・研修機構の『ユースフル労働統計 2021』によると、日本人の生涯年収は大学・大学院卒の男性で約2億6900万円、女性は約2億1700万円、高卒の男性は約2億1300万円、女性は約1億5200万円とされている。

 このように生涯年収は学歴や性別によって異なり、さらに正規雇用か非正規雇用かでも大きく異なる。老後に必要な資金が2000万円だとする、「老後2000万円問題」が話題となったが、生涯年収の格差をどう是正するかが大きな課題となっている。

 この記事では生涯年収をテーマにした過去記事をピックアップして、日本社会が抱える課題や識者の意見を紹介していく。

生涯年収はどうなるか

 働き方が多様化する現在、ビジネスパーソンの中で早期退職を選ぶ人が増えている。しかし早期退職は生涯年収にマイナスの影響を与えかねない。雇用・賃金アナリストの鍋田周一氏によると、大卒会社員の生涯年収は2億7400万円だというが(2012年当時)、これは年功序列制度下で60歳まで勤めた場合の話。50歳で早期退職した場合、退職金などを加味しても生涯年収は8800万円ほど少なくなるという。

[議論]あなたは変幻自在にキャリアを作る「土台」があるか

 法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授は「生涯年収を3億円以上稼げる人とそうでない人の違い」について、「学びを深めながら働いていくか、目の前の仕事をただこなすだけか」という行動格差を挙げる。田中教授によると前者は後天的に身につけられ、「プロティアン人材」と呼ばれるという。

日本社会を分ける「学歴」という名の見えない分断線

 日本社会は「大卒と非大卒で二分されている」という。双方の格差の1つが生涯年収だ。25~29歳の高卒者の平均年収は356万円(19年8月当時)で、これに対し大卒者(院卒含む)の平均年収は433万円。生涯年収で約5500万円もの差が発生するという。

アルコール依存、貧困化……さまよえる大卒者の現実

 しかし大卒者が必ず有利とは限らない。生涯年収に5000万円の差があっても、生活コストの高い都会に暮らせば相殺されてしまう。大卒でも「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる貧困層が一定数存在し、中には精神的な疾患を発症してひきこもりになる人もいるという。

塾代60万円の衝撃 大卒型人生モデルは継承もいばら道

 学歴は生涯年収に大きな影響を与えるが、子どもに高水準の教育を受けさせようとすれば金銭的な負担が増える。ある家庭では小学6年生の3カ月の塾代として60万円以上を費やし、夫のボーナスを塾代に充てているという。小学校は公立で、中学校から大学までの向こう10年間、私立に通った場合の学習費は1448万円にもなる。

AI研究の松尾豊教授「事業を立ち上げるのが資本主義の基本」

 東京大学大学院教授の松尾豊教授は、「育成すべき人材についてどのような指標で見たらいいのか。単純に言うと、大学を卒業した人の生涯年収を上げることではないかと思います」と語る。卒業後の生涯年収が上がるような教育を施すことが、現代の日本社会で活躍できる人材の育成につながるという。松尾教授の研究室では学生に起業を勧めているが、背景にあるのは「事業でもうけたいという思いが社会貢献になるのが、資本主義経済の基本」という考えだ。

最後に

 現代の日本では学歴などによる生涯年収の差が大きい。一方で高学歴でも、居住地や仕事への適性などでワーキングプアになる人もいる。生涯年収は老後の生活に大きな影響を与えるだけに、私たちが自分の生涯年収と、それを引き上げる方法に関心を持つ必要があるだろう。

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