デザイナーの思考や手法を利用して課題の解決策を導くデザイン思考。シリコンバレーのIT企業から日本の家電メーカーに至るまであらゆる場所で活用され、イノベーションを生み出してきた。今回はデザイン思考を実際の現場で活用しているケースについて過去記事からピックアップしていく。

新たなイノベーションを生み出す「デザイン思考」

 デザイナーやクリエイターの思考や手法を応用し、課題の解決策を導くデザイン思考。2005年に米スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所によって提唱されたデザイン思考には、以下の5つのプロセスが含まれる。

  1. ユーザーが何に共感し、何を本当に求めているかを見つけ出す「観察・共感(Empathize)」
  2. ユーザーが本当に実現したいものと潜在的な課題を深掘りする「定義(Define)」
  3. ブレーンストーミングなどで解決のアイデアやアプローチ手法を話し合う「概念化(Ideate)」
  4. 時間やコストをできるだけ掛けず、アイデアをいったん形にする「試作(Prototype)」
  5. 試作品に対するユーザーテストを繰り返し、ブラッシュアップを図る「定義テスト(Test)」

 デザイン思考は、シリコンバレーを中心に世界中の企業によって新製品・新サービスの開発に利用されている。たとえば米アップルのiPadもデザイン思考の成果の1つだ。

 この記事ではデザイン思考の活用事例について取り上げた過去記事を紹介する。

シリコンバレーではデザイナーが重役を務める

 シリコンバレーでは、IT企業がデザイン会社を買収したりデザイナー自らが起業家になったりするケースがしばしば見られる。テクノロジーを扱う企業がデザインを重要する理由について、当事者たちは「ストーリー(物語性)が求められているから」と語る。

 ストーリーとは製品やサービスの底流にあるもので、起業家が自身の製品やサービスのストーリーを理解し、伝わるように話すためにはデザイナーの視点が必要なのだという。

米IBM、デザイナー1500人体制へ

 デザイン思考を重視し、デザイナーを大量に雇用している企業の一つが米IBMだ。2012年に375人だった同社のデザイナーは、2015年には1100人に増加。2017年には1500人に増やす計画を立てていた(2016年当時)。

 2012年に就任したGinni Rometty CEO(最高経営責任者)は、「デザイン思考にIBMの未来を懸けた」といわれるほどのデザイン思考信奉者だ。「顧客を正しく理解するためには、デザイン思考が必須」と考えるIBM。社内はもちろん、顧客向けにもデザイン思考のトレーニングを提供していく考えだ。

無印良品の「デザイン思考」はここを観察する

 日本でもデザイン思考を取り入れている会社は多い。たとえば良品計画では人間が生物として「快適だ」「心地よい」「不快だ」と感じる生理的な快・不快を研究し、それを開発に生かすことにより商品が世界中で受け入れられてきた。

 同社は「生活者の日々の課題に寄り添う」ことを重視し、そのために「生活者と『会話』する仕組み」を取り入れている。これはデザイン思考とほぼ同じアプローチだ。

デザイン思考でAIに「ユーザー心理」を吹き込め

 オリックスと会計ソフトの弥生も、共同開発するサービスにデザイン思考を採用している。両社が開発しているのは「アルトア オンライン融資サービス」という金融サービスだ。開発当時、日本では新しいサービスだったため、既存の解決策に依存しないデザイン思考を取り入れたのだという。

 デザイン思考を使い、ユーザー企業の視点から「金融サービス」を開発するケースは珍しく、ユニークな事例として注目を集めた。

パナソニック、「デザイン思考」で現場力強化に挑む

 パナソニックでは「商品開発の『現場力』を変えるための取り組み」として、「FUTURE LIFE FACTORY(フューチャーライフファクトリー)」と呼ぶ専門組織を立ち上げている。目的は顧客の潜在ニーズを深掘りし、デザインの視点でこれまでにないプロダクトを生み出していくことだ。

 同社がデザイン思考を生かした製品開発を急ぐ背後には、すでにIoTやAI(人工知能)を家電の世界に導入している中国企業などの存在があるという。

富士通、13万人の全社員にデザイン思考を浸透

 同様にデザイン思考を重視しているのが富士通だ。同社が設置する富士通デザインセンターは、プロダクトやソフトのGUIなど文字通りのデザインを担当してきた富士通デザインを母体とする。しかしその目的は「富士通グループ全体にデザイン思考のマインドや仕事のやり方、スキルを浸透させる」ことだ。

 すでに2021年1月からeラーニング方式で社員向けの教育を行っており、3月末までに約6000人が受講したという。20年度から22年度までの3年間をかけて「13万人の全社員」に幅広いスキルを身に付けさせる計画を立てている。

最後に

 デザイナーの思考や手法で課題解決方法を導くデザイン思考。2005年に提唱された比較的新しいプロセスだが、シリコンバレーのIT企業をはじめ世界中で活用されている。日本でも大手企業を筆頭にデザイン思考を取り入れるケースが増え、中には保険サービスの開発というユニークな活用事例も見られる。今後もデザイン思考によってさまざまなイノベーションが生まれることを期待したい。

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