世界最大のスーパーマーケットチェーンである米ウォルマート。小売市場は米アマゾン・ドット・コムによる侵食が続いているが、ウォルマートは独自の手法でアマゾンに対抗し、自社の電子商取引(EC)事業を成長させ続けている。同社はどのようにデジタルシフトし、成長を遂げてきたのか。これまでのニュースをまとめて解説する。

ウォルマートの沿革と注目される理由について

 ウォルマートは、サム・ウォルトンが1962年に創業したスーパーマーケットチェーンだ。

 もともとは雑貨店を土台にしたディスカウントストアだったが、その後、ウォルマート・スーパーセンター、ウォルマート・ネイバーフッド・マーケットなど、様々なフォーマットを展開。

 現在は、売上額で世界最大の企業に成長した。なお、日本では西友を子会社化して事業展開している。また、ウォルマートは同族経営企業としても知られる。2019年に発表された「グローバル・ファミリー企業500社ランキング」では、世界の同族経営企業の中で世界一の規模であると評価された。デジタル化にも積極的で、多くのスタートアップを買収し、テクノロジーの導入、そしてテクノロジー人材の拡充を進めている。

ウォルマートがデジタル化できたワケ

 ウォルマートのデジタルシフトが軌道に乗りつつある。

 デジタル化に苦戦続きだったウォルマートだが、前最高経営責任者(CEO)のマイク・デューク氏の決断で、11年にソーシャルメディア関連のベンチャー企業コスミックスを買収したことが転機となった。その後も16年にEC分野の有力スタートアップ「Jet.com」を買収するなど、テクノロジー人材を一度に取り込むことで、自社のデジタル化を図っている。従来の行動様式にとらわれず、常に外部の人材や技術を取り込んで内部を変革したことがデジタルトランスフォーメーションに成功した要因だという。

ウォルマートが仮想現実(VR)スタートアップを設立

 ウォルマートは企業の買収だけでなく、自社でスタートアップを設立することにも意欲的だ。19年2月14日には、スタートアップ育成部門「Store No.8」が仮想現実(VR)技術のスタートアップ「Spatial&」を設立したと発表した。米ドリームワークス・アニメーションと提携し、映画「How to Train Your Dragon」のVR版予告編を、ウォルマートの一部店舗に設けた施設で体験できるようにした。

ウォルマート、グーグルやアマゾンなどで幹部を歴任した人物をCTOに任命

 ウォルマートがテクノロジーの向上と同様に注力しているのが、人材の確保である。

 19年5月28日、ウォルマートは数多くのテクノロジー企業で幹部を務めてきたスレーシュ・クマール氏(当時54)を最高技術責任者(CTO)兼最高開発責任者(CDO)に任命したと明らかにした。同氏はそれまで米グーグルで広告事業のバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めた他、米マイクロソフトやアマゾンなど様々な企業で幹部職を歴任した。クマール氏は19年7月8日付でウォルマートの新たな役職に就任し、ダグ・マクミロンCEOの直属となった。

フェイスブックのVR、フォードやウォルマートが熱視線

 米フェイスブックがB to B用途でのVR(仮想現実)事業、いわゆる「ビジネスVR」を本格化する。

 同社はVR用ヘッドマウントディスプレー(HMD)と、B to B向けソフトウエアなどを一緒にしたビジネスVRのサービス基盤(プラットフォーム)「Oculus for Business」の一般販売を19年秋から始めた。

 ウォルマートも、店員の訓練用としてフェイスブックのオキュラスのHMDを導入。訓練の効率が上がることを確認した後、1万7000台のHMDを導入した。VR訓練用ソフトウエアを手掛ける米STRIVR Labsとともに、50以上の訓練プログラムを構築したという。

怒れる客にどう対応? ウォルマートがVRで管理職試験

 ウォルマートは、管理職の昇格を決める際にもVRヘッドセットを用いたテストを実施するという。ヘッドセットの中に怒った顧客や汚れた通路、働きの悪い部下などを登場させ、それらにどう対応するかを見る。

ウォルマート、アマゾン対抗の秘策

 これまで米アマゾン・ドット・コムの攻勢にさらされてきたウォルマートが、ようやく反転攻勢に向けた体制を整えつつある。17年度のeコマースの売上高が、直近の四半期で前年同期比63%増と大幅な伸びを見せたのだ。それには16年に買収したネット通販ベンチャー「Jet.com」のCEOで、米国eコマース部門の会長兼CEOでもあるマーク・ロア氏の存在が大きい。

 ロア氏はテクノロジーを駆使したeコマース版の「エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)」を推進し、独自のプライシングシステムや配送システムなどを構築。実店舗とeコマースを融合させた新たなビジネスモデルによりアマゾンとの攻防に備える。

ウォルマート幹部、アマゾンに対し「税金を払え」

 そんな中、アマゾンとウォルマートの幹部のやりとりが注目された。

 アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOが19年4月11日、株主への手紙に「従業員に対する福利厚生と(競合よりも高い)最低時給15ドルで競合に挑む」と書いたことに対し、ウォルマート幹部のダン・バートレット氏が「なら税金を払ったらどうだ?」とツイートしたのだ。アマゾンは研究開発費の控除などを活用して18年12月期の法人所得税を払わず、米国内で批判を浴びていた。

アマゾンとウォルマートが配送戦争、生鮮食品を冷蔵庫まで

 ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは、19年6月の年次総会でアマゾン対抗の秘策とも言える新サービスを披露した。外出中の顧客の自宅に従業員が上がり、冷蔵庫に生鮮食品を届ける「インホーム」というサービスだ。これに対し、アマゾンは生鮮食品を注文した当日に玄関先まで配達する「Amazon Fresh」や、ドローンなどを利用した空の配送「Amazon Prime Air」といったサービスを公表している。

ウォルマートがデジタル通貨、フェイスブック「リブラ」との違いは?

 19年8月には、ウォルマートがデジタル通貨・ウォルマート通貨(Walmart Currency)の特許を申請していたことが分かった。ウォルマート独自の通貨として買い物だけでなく在庫の流通管理、従業員への支払いなどにも利用する。狙いは、クレジットカード会社に支払う決済手数料の軽減や、ウォルマートの顧客層である低所得層の取り込みである。ウォルマート通貨の特徴は、顧客の商品購入を起点として、様々なサービスと連携できる仕組みを想定している点だ。

最後に

 これまでウォルマートの注目される理由、そして現状や今後の狙いについて紹介した。老舗の小売りチェーンである同社がどのようにデジタルシフトや人材確保に取り組み生き残ってきたのか、日本の企業も参考にできる部分がある。

 アマゾンのような巨大プラットフォームが生まれる中、ウォルマートの今後の動向に注目である。

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