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人口減少で内需が縮小傾向にある日本において、インバウンド(訪日外国人旅行)消費は経済成長を考える上で非常に重要な要素だと言える。本記事では、インバウンドを巡る国内の状況について、過去記事を紹介しつつ振り返る。

伸び続けるインバウンド需要

 昨今、インバウンドの伸びが著しい。

 国内の円安傾向や、中国や韓国を中心としたアジア諸国の成長、そして直近ではラグビーワールドカップの開催などが、その要因として考えられるだろう。実際、JNTO(日本政府観光局)の推計によると、2019年9月の訪日外国人旅行者数は前年同月比5.2%増の227万3000人を記録している。また、政府は2020年に開催される東京五輪・パラリンピックまでに、年間訪日外国人旅行者数を4000万人に伸ばすとして、その達成に向けて様々な取り組みを実施。現在のところ、順調に増加している。

インバウンドは数から質にシフトすべき

 日本のインバウンドの数は2013年に初めて1000万人を超えた。それまでの10年ほどの伸びは、指摘されたように世界の海外旅行市場が伸びていることによる面が大きく、日本そのものが特に選ばれているわけではなかった。だが、ここ数年の伸びは、一種の日本ブームが起こっているからだと言える。ここで注意が必要なのは、ただ数を稼ぐことに徹してしまうことだ。今後は、しっかりとターゲットを定め戦略をもっていかにリピート率や顧客単価を向上できるか、「質」の部分を重視していく必要がある。

インバウンドの数だけで観光立国は望めない

 一方、マーケティングだけでなく「産業政策」が重要だという見解も見られる。国を挙げた産業政策により、企業経営の効率化、特にオペレーション効率の改善とプライシング・マネジメントを通じた「生産性向上」を果たし、その果実を働き手にも還元するというわけだ。日本の観光産業の生産性を上げ、働き手の賃金と雇用の質を高めなければ、特に小規模な旅館など、低い利益率に苦しんでいる業態にとっては苦しい状況が続いてしまう。訪日外国人旅行者の「数」やリピート率、単価などの向上を図るだけでは不十分なのだ。

インバウンド対応は「一歩先の満足」へ

 こうした課題が見られる一方で、多くの企業が個々で努力を重ねている姿も見られる。例えば、以下で紹介されている羽田空港の取り組みなどがそうだ。同社は2018年7月、訪日外国人旅行者向けのポータルサイト「Flying Visit Japan」を7月20日に開設した。スマートフォンやタブレットで調べ物をする世代をターゲットの中心に据え、その細かな関心事にまで応える、満足度の高い情報提供を目指すという。一歩先の満足、つまり質の向上を目指した取り組みのひとつと言えるだろう。

語学力がなくてもインバウンドで稼げる

 とはいえ、訪日外国人旅行者の満足度、サービスの質を上げるのはそう容易なことではない。様々な課題がある中でも「言語の壁」の影響は大きいだろう。特に東京都内では、2020年のオリンピック開催により、インバウンド需要の拡大が予想される。多くの企業が今から準備を進めているようだ。浅草のお好み焼き店「浅草 つる次郎」では、外国人客とのコミュニケーションに「LINE英語通訳」を活用。外国人観光客向けに、スタッフが写真を撮影し、プレゼントをする無料サービスを行っているという。

インバウンドの”聖地”新宿・歌舞伎町の処方箋

 訪日外国人旅行者に、日本の魅力を伝えるには、イベントなどの一過性のものだけではなく、日々の様々な草の根運動が重要だ。2015年に新宿・歌舞伎町で開業した、通称“ゴジラホテル”の愛称で海外でも知られる、ホテルグレイスリー新宿は、こうした課題に果敢に挑戦している。部屋数は、970室を誇る同ホテルだが、開業当初70%ほどだった客室稼働率は年々上昇。現在は85%を超えるという。それを支えたのは、宿泊客の実に8割以上を占める外国人旅行客で、リピーターも多い。アジア有数の歓楽街である歌舞伎町のにぎわいを演出し、その面白さを丁寧に伝えてきたことが功を奏したという。

「インバウンド向け宿泊施設」のすごい中身

 また、宿泊施設の分野では、2015年あたりから相部屋・素泊まりで3000円前後というホステル形式のインバウンド向け宿泊施設が急増している。中には従来のホステルと違い、低価格でもデザイン性が高く、快適さ、便利さを追求している施設も出てきているという。サンケイビルが展開する、インバウンド向けゲストハウス型ホテルブランド「グリッズ(GRIDS)」の「グリッズ秋葉原」、そして「グリッズ日本橋イースト」などはその良い例。日本文化を感じるデザインやエンタメ性が特徴だ。

大阪、止まらぬ「インバウンド依存」

 インバウンドが好調なのは、東京だけではない。大阪では、2025年の開催が決まった万博が起爆剤になり、訪日外国人旅行者の増加が起こっている。加えてIR(統合型リゾート)の誘致にも熱が入るが、そこで明らかになったのが、インバウンド需要への依存体質だ。前述した通り、一過性のイベントや移り気なインバウンド客に依存せず、産業の地力を取り戻すことが、その地域の持続的な成長には欠かせない。しかし大阪に関しては、この問題に関する有効な解は見えていないようだ。

インバウンド需要を取り込め!ぐるなびの挑戦

 そうした中長期的な成長を目指すのに必要なのは、いつでも訪日外国人旅行者が、何らかの形でその地域や店の情報を取得できる状況を作ることだ。そこに目を付けたのが、飲食店の情報を集めたウェブサービス、ぐるなびだ。同社は、インバウンド向けの販促支援を新たなセールスポイントとし、2015年1月に外国人向け飲食店サイト「ぐるなび外国語版」の大幅刷新を実施した。

景気が危うい中、インバウンド消費に陰り

 しかし、企業のインバウンド需要への大きな期待がある一方、陰りも見え始めている。2018年の訪日外国人旅行者数は、過去最高を更新する3119.2万人。政府が目指している東京五輪・パラリンピックが開催される2020年の4000万人達成に向けて、順調に増加している。しかし観光庁によると、その消費額となると話は別だ。18年の訪日外国人旅行消費額は4兆5064億円にとどまっており、政府が目指している20年の8兆円達成にはまだまだほど遠い。

活況インバウンドに漂う暗雲 人手不足に加え、円高や日韓関係悪化も

 その背景には、人手不足に加え、円高の進展や日韓関係の悪化が関係しているようだ。2019年の7月末、米国が10年半ぶりに利下げを発表し、8月に入ってトランプ米大統領が対中制裁関税「第4弾」の発動を表明したことをきっかけに、急速な円高が進行。また、訪日外国人旅行者数で中国に次いで2番目の「お得意様」である韓国からの訪日客の減少も、痛手になっている。

最後に

 ここまで、インバウンドを巡る国内の状況を、過去の記事を参照しながら紹介してきた。インバウンド需要の伸びの背景にあるのは、円安や他のアジア諸国経済成長だ。こうした状況を受け、多くの企業が対応を行い、インバウンド需要の取り込みを図っている。

 しかし、直近では円高や日韓関係の悪化など、インバウンド消費の伸びを阻害するような事態も見られる。2020年の東京五輪・パラリンピックまでに、どのような展開が待っているのか、今後も目が離せない。

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