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経営者に限らず、様々な年代のビジネスパーソンが注目している経営学。毎年のようにベストセラー書籍に経営書が入ることがその証左だろう。「MBAは役に立たない」と主張する人も一定数いるが、果たしてそれは本当なのだろうか。以下、経営学についてより深く理解するためのトピックスを見ていこう。

経営学とは

 経営学とは、企業や組織を管理・運営するための手法を研究する学問である。

 会計学・経営戦略論・人的資源論・マーケティングなどが、経営学の領域に含まれる。そして、経営学の大学院修士課程を修了すると与えられるのが経営学修士、いわゆるMBA(Master of Business Administrationの略)である。

 なお、経済学と経営学との違いについては、以下のように説明できるだろう。経済学が社会全体における経済システムを対象としているのに対し、経営学は個々の企業・組織の課題解決を対象にしている点が両者の違いといえる。ただし近年では、両者の境目は以前ほど明確なものではなくなってきている、という指摘も補足しておく。

経営学は理論と実践の両面で役に立つ

 ところで、そもそも経営学は役に立つのか。まずはこの問いについて、近代経営学の課題とともに見てみよう。

 経営学は「部分分析」についての研究では既に大きな成果を上げているが、統合の視点が足りないと評されることがある。

 例えば、MBAの「経営戦略論の教科書」では、第1章に外部環境分析、第2章に企業リソースの分析、そして第3章に競争戦略についてといった具合に、部分分析については詳細に書かれている。しかし「経営者はそれらの部分をどうやってまとめあげて、1つの決断を下すべきか」については、それほど多く書かれていない。経済学よりも歴史の浅い経営学では、このように部分と全体のトレードオフがはるかに顕著だ。

 しかし、だからといって経営学が役に立たないというわけではない。むしろ、学問・実務の両面において意味があるだろう。

 なぜならば、経営について「部分分析」していくことは、経営者の「全体をまとめる」意思決定を助ける道標となるはずだからだ。また、経営学者の間でも「全体をまとめる」のに役立つ経営理論の探究が既に始まっている。経営学の理論を実務に応用しやすくするために、今後のさらなる成果に期待したいところだ。

経営学の研究事例1:利益率を決める要因

 では、経営学の研究の具体的事例を見てみよう。

 世界の経営学では、企業の「儲かる・儲からない」を決める要因は何なのかという問いに対して様々な実証分析が行われてきた。

 1985年に経済学のトップ学術誌「アメリカン・エコノミック・レビュー」に掲載された、マサチューセッツ工科大学(MIT)のリチャード・シュマレンジー教授の論文内容は「利益率は、企業がどの産業にいるか(=産業効果)で規定される」というものであった。

 91年にカルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のリチャード・ルメルト教授「ストラテジック・マネジメント・ジャーナル(SMJ)」に発表した論文では企業利益率のほとんどは企業効果である」という結果に。

 97年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、カナダ・トロント大学のアニータ・マクガハン教授とSMJ誌に発表した論文では、「企業利益率のバラツキの約50%を説明でき、その内訳は産業効果が4割ぐらいで、企業固有の効果は6割ぐらいにとどまる」という内容だった。

 日本企業については、2011年に「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・アンド・インターナショナル・エコノミーズ」という経済学の学術誌に「企業効果が7割を超え、産業効果とコーポレート効果は比較的小さい」という内容の論文が掲載された。

 ほかにも、多角化戦略の効果、国の違いによる効果などが研究・分析されている。

経営学の研究事例2:ダイバーシティ経営

 引き続いて、ダイバーシティ経営に関する研究結果を見ていく。

 まず、ダイバーシティには2つの種類があることを認識する必要がある。すなわち「タスク型の人材多様性(Task Diversity)」と「デモグラフィー型の人材多様性(Demographic Diversity)」である。そして、最近の研究では次のような法則が導き出されている。

法則1:「タスク型の人材多様性は、組織パフォーマンスにプラスの効果をもたらす」
法則2:「デモグラフィー型の人材多様性は組織パフォーマンスに影響は及ぼさない」または「組織にマイナスの効果をもたらす」

 これだけを見ると、例えば単に女性を登用するだけでは組織にとってプラスに働かないことになる。ではどうすればいいのか。

 中途半端にダイバーシティ経営を目指すのではなく、徹底的に「多様な年代・国籍の方々を同時に登用する」など、複数次元でのダイバーシティを進めるのだ。

 実際、「デモグラフィーが多次元にわたって多様であれば、組織内のあつれきはむしろ減り、組織パフォーマンスは高まる」という旨の結果が得られている。

経営学を学ぶのにお薦めの書籍1『小倉昌男 経営学』

 続いて、経営者が薦める経営書を見てみよう。

 1冊目は、J.フロントリテイリングの社長兼CEOを務めた奥田務氏の推薦書籍だ。

 関西学院大学の専門職大学院で、経営戦略と組織管理に関する教べんをとってきた奥田氏。

 受講生から「1冊に絞るとしたらどの本か」と質問された際に答えたのが『小倉昌男 経営学』だった。

 本書を薦める理由を次のように語る。

理由1:小倉昌男が消費者のニーズに応えた全く新しいビジネスモデルを創出したこと。
理由2:本書では理論と実践が共に描かれていて、ロジックをきちんと実行して結果を出していること。
理由3:経営で一番大切なのは考え抜くことだと指摘していること。

 小売業きっての理論家として有名な奥田氏が、最も参考になる経営書として薦める『小倉昌男 経営学』は、今なお多くの経営者に読み継がれている。

経営学を学ぶのにお薦めの書籍2『イノベーション・オブ・ライフ』

 ノバルティス ファーマ元最高顧問の 三谷宏幸氏が薦めるのは、『イノベーション・オブ・ライフ』だ。本書はC・M・クリステンセン氏が、ハーバード・ビジネススクールの卒業生に向けて行った講義が基となっている。

 “幸せな人生を送るための手引き”ともいえる本書は、純粋な経営学の本とはやや異なるかもしれない。しかし、経営学的観点で見ても本質的なものを提示しているのは間違いない。

 例えばクリステンセン氏は、人生の目的を形作るのは「自画像」「献身」「尺度」の3つだと主張する。自画像はなりたいイメージ、献身とは努力、尺度は進捗のことだ。

 以上のことは個人の人生だけではなく、そのまま企業にも通じるものだ。

最後に

 経営学の研究事例・書籍をご紹介した。

 経営者でなくとも、企業・組織を最適な形で運営する手法を学ぶのは有用だろう。研究事例や書籍から企業経営のエッセンスを学び、ぜひとも日々の仕事に役立てたいところだ。

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