組織体としての行動や組織内の個人・集団の行動を理解する組織論。学問としての組織論にはさまざまな種類があるものの、重要なのは明確な組織論に基づく経営者の行動だ。著名な経営者の事例から、それぞれの組織論をピックアップしていく。

さまざまな視点から組織を分析する「組織論」

 組織論とは、組織体としての行動や組織内の個人や集団の行動について、社会学、社会心理学、心理学、人類学、経済学などを利用して分析すること、もしくはそのような学問や行動理念のことをいう。組織論にはさまざまなものが存在するが、米国の経営学者チェスター・I・バーナードが提唱した組織論は特に有名だ。

 バーナードによると、組織は「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通の目標」という3つの要素によって成立するという。どれか1つが欠けても機能不全となるため、組織のリーダーにはこれらの要素を踏まえたリーダーシップと行動力が求められる。

 今回は近年の著名なリーダーたちが実践する経営と組織マネジメントについて過去記事から紹介する。

東急グループが進める「楕円型経営」

 最初に紹介するのは、東急電鉄の野本弘文社長(当時)が実践した「インターネット時代の組織論」。

 複数の企業からなるグループ企業では親会社がグループの頂点に位置し、その下に子会社や孫会社がぶら下がる「短冊型」の組織構造をとることが多い。これに対し、東急電鉄を中心とした東急グループでは東急電鉄を核に位置付け、周辺にグループ企業を配する「楕円型」の組織となっている。その狙いは東急電鉄と各グループ会社の距離を縮めることだ。

 短冊型の組織は親会社に情報を集約するには効率的だ。だがグループ会社の情報が一度親会社を通ってから別のグループ会社に回るため、情報伝達に時間がかかることが多い。情報が親会社を通る間に、親会社からの横やりが入りやすい欠点もあった。

 しかし野本氏は「グループ会社同士で直接やり取りしてもらって全然構わない」と語る。中心である東急電鉄がすべての情報を把握する代わりに、グループ内で縦横無尽に連絡を取り合うことで情報分析と対応のスピードを上げるのがその狙いだという。

本田圭佑が考える、経営者の「必須条件」

 元サッカー日本代表の本田圭佑氏も、独自の経営理念を持つリーダーの一人だ。

 「どちらかと言えば自分は人を使うタイプだった」と語る本田氏。サッカーとビジネスの組織論は似ているといい、どちらも「いかに人を動かしていくか」が重要だという。

 本田氏が実質的に経営をつかさどる「ホンダエスティーロ」は、2016年時点で正社員、契約社員を含めて100人弱。“本田圭佑”というネームバリューが大きすぎるあまりワンマン経営が想像されるが、実際には、海外での実績やマネジメント業の専門性を持つ神田康範氏、スポーツメーカーのミズノで開発に携わっていた大本拓氏など、良き理解者たちとバランスを保ちながら組織を動かしている。

 本田氏は「一人ひとりが何をすべきかに気づかないといけない。そこに目を光らせることが、組織を循環させることにつながる」と言う。サッカーの世界では選手にとって監督がそういう存在だとし「ビジネスの世界でも、それができる人は優れた上司だと思う」と語った。

シチズンHD社長、事業持ち株会社への回帰を語る

 純粋持ち株会社(ホールディングス、HD)か、事業持ち株会社か──。1997年にHDの設立が解禁されて以降、経営者たちが頭を悩ませている課題だ。シチズンホールディングスはいったん採用したHD体制から、2016年10月、シチズン時計による事業持ち株会社への回帰を決めた。

 07年にホールディングス化したのは、基盤事業だった時計と、デバイスなどの非時計事業を対等に扱い、両者を同じくらいの規模に育てるためだった。しかし、16年には事業持ち株会社に移行することになった。

 当時、シチズンホールディングスの社長だった戸倉敏夫氏は「HD体制にも良い点はあった」とし、グループ各社のモニタリングがしやすくなり、「こんな事業には投資したり参入したりしない」といった決まりを明確にできたと言う。

 だが、当初期待した事業会社の枠を超えた人材の融通は進まず、屋台骨である時計事業についても、意思決定に事業会社とHDの両方の取締役会での決議が必要になるなど二度手間が目立つようになった。そこに市況の悪化が襲った。

 事業持ち株会社体制に移行することになったが、「理想というものは存在しないかもしれない」と言う戸倉氏。今後は10年くらいのスパンで、組織体制を見直すことも視野に入れているとした。

ベンチャー経営から私が得たこと

 オリックスのシニア・チェアマンを務める宮内義彦氏は、組織論の中で最も忘れてはいけないことは「会社を動かしているのは、人そのもの」だとする。

 日常の仕事から大きなプロジェクトまで、人のつながりをうまくつくることができると、全員の力がプラスに働いて成功の確率は高まるという。そのような考えを深く刻むようになったのは、若い頃に出会った2人の経営者の影響が大きいと宮内氏は話す。一人はリースの基本を教えてくれたU.S.リーシングの副会長だったヘンリー・B・ショーンフェルド氏、もう一人はオリックスの社長を長く務めた乾恒雄氏だという。

瀬戸欣哉社長(LIXILグループ)のDo The Right Thing

 LIXILグループの瀬戸欣哉社長兼CEOが考える組織論は「全てを『ジュースバー』のようにすること」。このボタンを押したらオレンジジュース、別のボタンを押したらウーロン茶、というように誰がやっても同じ結果が出るような会社が理想だという。

 ただ日本では、年功序列など組織の中に明文化されていない「暗黙知」が多く、なかなかそうならない。海外の会社はそうした暗黙知が少なく、明文化されているルールに従って動いている。外から来た人が暗黙知を知らないがために、うまく働けない日本の会社とは対照的だとする。

 社員が、お互いの暗黙知を理解し合うために膨大な時間を費やすような悠長なことはできないとする瀬戸氏。暗黙知に頼らない組織に変えるために一番重要なのは「明文化されているルール以外はルールじゃない」と経営者が言い続けることだと語る。

ハイアールを「俊敏」にする「人単合一」モデル

 日本の家電メーカーを圧倒するハイアール。そのハイアールに注目するのが、1997年に「ダイナミック・ケーパビリティ」という概念を提示した世界的に著名な経済学者、米カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・ティース教授だ。ダイナミック・ケーパビリティは、組織とその経営者が、変化に対応するため内外の知見を統合し、構築し、組み合わせ直せる能力のこと。

 ティース教授はハイアールの経営理念「人単合一」(個人単位の市場目標を統合する)には、ダイナミック・ケーパビリティの発揮を促進する働きがあるとする。ダイナミック・ケーパビリティを実現するための要は「分権化」と「自己組織化」であり、ハイアールは社内に数多くいる社内起業家による分権化と自己組織化で実践しているというのだ。

ソフトバンクGはなぜしぶとい? 危機を好機に変える4つの技術

 2020年3月期、ソフトバンクグループの営業赤字が1兆3646億円となった。しかし孫正義社長は「余裕で崖の下をのぞいている状況」と語り、さらなる巨大投資に意欲を見せる。ソフトバンクの「しぶとさ」は、過去に何度もピンチを起爆剤にしてきたことでも明らかだ。

 「ピンチをチャンスに変える」には長期的な視野に立ち、将来への予測と目標を見失わないことだ。その点、ソフトバンクは、「300年後の世界」「30年ビジョン」など超長期軸を掲げ、それを社員と社会に提示することでピンチの際にもパニックにならない組織をつくり上げている。

ブートキャンプは最高の「場」 米海兵隊は野中理論の塊

 最後に紹介するのは、米海兵隊の組織論。海兵隊という組織は、自らの存在意義が問われるたびに進化を遂げてきた。鋼鉄艦の時代に海兵隊不要論が出ると対日戦争を予見した「海から陸へ」の「水陸両用作戦」を提唱し、原爆開発にともなう不要論の際は輸送ヘリコプターを導入して「水陸に加えた空陸統合作戦」を編み出し、自らを「緊急展開部隊」として発展させた。

 このように「自己革新組織であり続ける」こと、またそのために「徹底的に知的な討論を展開」し、「行動指針を徹底的に身体化」することが海兵隊を支える組織論だ。

最後に

 さまざまな学問を利用して組織や組織内の行動を分析することで得られた知見は、経営者によって実践され、組織を進化させていく。組織論は1つではないし、その実践結果は企業によって異なる。だが、いずれの組織論にも学ぶべきことは多い。規模の大小を問わず、組織を活性化させるために、ビジネスパーソンは組織論に関心を持つべきだろう。

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