「子どもは親を選べない」ことをソーシャルゲームになぞらえて表現した「親ガチャ」。流行語大賞にノミネートされるほど注目を集めた背景には、家庭の都合で進学を諦める教育格差や、ネグレクト(育児放棄)などの問題がある。今回は親ガチャに関連するテーマについてこれまでの記事からピックアップしていく。
教育格差やネグレクトを背景に注目される「親ガチャ」

親ガチャとは、生まれ育つ環境を子ども自身が選べないことを表すネットスラングだ。ソーシャルゲームでキャラクターやアイテムを入手する方法(ガチャ)になぞらえてこのように呼ばれ、2021年の流行語大賞にもノミネートされた。
親ガチャという言葉が注目される背景には、家庭の経済環境による教育格差やネグレクトなどの問題がある。特に「親が経済的に困窮している」ために大学進学を諦めるケースは全国的にも多く、国の将来を担う人材育成の面からも大きな問題となっている。
この記事では親ガチャという言葉をめぐる識者の意見や、社会課題となった教育格差やネグレクトなどに関する注目のトピックをこれまでの記事から紹介していく。
「親ガチャ」は単なる初期設定である
流行語となった「親ガチャ」について、コラムニストの故・小田嶋隆氏は「当たり前」で「月並みな観察」と指摘する。一方で自己責任万能思想が幅を利かせる現代において、親ガチャは「責任放棄的な救済をもたらす」言葉として人々の心を捉えていると小田嶋氏は指摘している。
「50代より働かないZ世代」の光と闇 遅刻のお詫びは絵文字のLINE
健康社会学者の河合薫氏は、親ガチャという言葉を「格差が固定化されたZ世代の象徴」と見る。家族の介護を行う18歳未満の「ヤングケアラー」は中学生の約17人に1人、高校生では約24人に1人の割合に上り、そのうちの約3割は生活保護受給世帯だ。
こうしたZ世代では自殺率も高い水準にあるが、若者にとって生きにくい社会をつくってきたのは親を含む“上の世代”だ。
「冷蔵庫は空」「進学できない」 コロナが奪う困窮世帯の子どもの夢
教育格差の解消を目指して学習支援活動を続けるNPO法人キッズドア。同法人の渡辺由美子理事長は、困窮世帯に対する国の支援策について「(Go ToトラベルやGoToイートと比較して)単発で額も5万円、3万円と、とても少ない」と指摘する。また政府が用意する緊急小口資金や総合支援資金、住宅確保給付金なども「実態として全然使えない」と言う。
「子どもは親を選べない」親のカネがコロナ格差広げる理不尽
2020年12月に日本財団が行った調査によると、17~19歳の男女1000人のうち半数以上が「新型コロナウイルス禍で学習環境の差が広がった」と回答した。格差の原因について尋ねる質問には「子どもは親を選べない」「自力でどうにもできない」「金がなければ塾も大学もいけない」「経済力がなければ勉強できない」「親の仕事がないので学費がない」といった回答が相次いでいるという。
中間層復活へ岸田首相も意欲 「出世払い奨学金」は実現するか
若者世代の経済格差は、国の将来を担う「人材育成」にも大きく影響する。これを「新しい資本主義の実現に向けて喫緊の課題だ」と表現し、「奨学金制度の拡充」を目玉政策に掲げているのが岸田政権だ。奨学金によって教育機会を担保するのが狙いだが、一方で奨学金返済が難しくなった「返済困難者」も増えており、毎月の返済額を一時的に減額する「減額返還制度」を利用する人もコロナ禍で増加しているという。
変えろ! 児童養護施設出身者の望まぬ“末路”
親ガチャに象徴されるのは教育格差だけではない。中にはネグレクトや虐待などを受けて、親から離れて施設で暮らす若者たちもいる。施設出身者の中には「転職を繰り返し貧困化していくケース」もあるといい、負のスパイラルを断つための支援が必要とされている。
最後に
親ガチャという言葉は一時的な流行語にすぎないが、その背景にある問題は深刻だ。家庭環境による教育格差やネグレクトはさらなる貧困を招き、さらにその次の世代にも負のスパイラルをもたらす。国や民間による支援の行方を見守るとともに、私たち一人ひとりの立場でできることにも思いを巡らせていきたい。
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