経済学は経済や経済活動の仕組みについて研究する学問だ。これまで、実践的なビジネスとは関係ないと見られてきたが、海外企業を中心に経済学をビジネスや社会課題の解決に活用しようという「社会実装」の動きが盛んになってきた。その動きを過去記事からピックアップして紹介する。

ビジネスや社会に貢献する「経済学」

 経済学とは社会を取り巻く経済や様々な経済活動の仕組みについて研究する学問だ。研究対象となる経済活動には個人の消費行動はもちろん政府や企業、金融機関の行動や、こうした行動が行われる「場」、つまり市場の仕組みや構造に関するものも含まれる。

 一般に経済学は実践的なビジネスとは関係ないというイメージが強い。だが、海外では多くの企業が経済学をビジネスに活用する動きが盛んだ。さらに、ビジネス分野だけでなく、社会課題を解決するのにも利用され始めている。日本でも経済学を「社会実装」しようとする動きが出てきており、これまでの経済学のイメージは変わりつつある。

 この記事では経済学がビジネスや社会にどう貢献しつつあるのか、過去の記事から振り返っていく。

ビジネススクールでも教えてくれない、武器としての経済学

 経済学は「実社会において非常に役立つにもかかわらず、その真価をあまり発揮できていない学問」の最たるものだと大阪大学大学院の安田洋祐教授は言う。現在の大学の経済学教育では、経済に関する「サイエンス」ばかりに注力し、「エンジニアリング」と合わせることで実社会で役立てることができていないというのだ。

 安田教授は、「もし企業が経済学博士を積極的に雇用したり、ビジネスパーソンと経済学者が幅広く人事交流する機会があったりしたら、エンジニアリングな経済学はもっと早く日本社会に広まっていた」とする。「日本は米国に少なくとも20年は後れを取っている」と言う。

アマゾンが経済学の博士を100人雇う理由

 米国企業は経済学の活用に積極的だ。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック=現メタ、アップル)に代表される米国の大手IT企業が、こぞってデータサイエンティストを採用している。米アマゾン・ドット・コムでは経済学博士号を持つ専門家を100人以上雇用しており、需要分析をはじめとするデータ分析に活用している。こうした動きは、需要分析に代表されるデータ分析が、いかに武器として活用されているかを物語っている。

成田悠輔氏と安田洋祐氏が激論、「ビジネスに役立つ経済学」とは

 大阪大学大学院の安田教授は、経済学者と経営者という2つの顔を持つ。経済学のビジネス実装に取り組んでいる今井誠氏らと立ち上げたエコノミクスデザイン(東京・新宿)では無駄な広告を特定したり、ESG(環境・社会・企業統治)のコストパフォーマンスを測定したりしている。データ分析を使った予測精度の改善や、既存サービスの改善にも関与している。安田教授は「経済理論に基づくアイデアも、実はすぐ企業のサービスに使える」状況にあるという。

経済学はお金をもうけることにも使える 坂井豊貴・慶大教授

 「これまで経済学者は『経済学は金もうけのための学問ではない』という言い方で、ビジネスから逃げてきた」と言うのは慶応義塾大学の坂井豊貴教授だ。経済学は「金もうけのため」だけではないが、「金もうけにも使える」とする。ただし、経済学のビジネス実装に携わるには、お客様の気持ちを想像する習慣を持つとともに、「希望的観測は外れているものなので、悪いケースを前提に行動」することも必要だという。

困ったら、気軽に経済学者に尋ねてみる 渡辺安虎・東大教授

 米国のノースウエスタン大学を経てアマゾンジャパン(東京・目黒)の経済学部門長に就き、東京大学大学院教授に転じた渡辺安虎氏は「経済学のビジネス活用の可能性を実感している」と語る。実際に渡辺氏の知見は、JR東日本ウォータービジネス(現JR東日本クロスステーション ウォータービジネスカンパニー)との共同プロジェクトやアマゾンジャパンで生かされてきた。

 公的部門での経済学の社会実装については、行政データの扱い方について様々な議論がなされ、どのような問題点があるかが関係者間で共有されつつあるとする。利用手続きの煩雑さなど、行政データを整備・活用する動きが遅々として進まないという問題があるが、これを解決すれば、経済学の社会実装は進むと期待している。

待機児童問題の解消に経済学は役立てる 小島武仁・東大教授

  2020年、米スタンフォード大学から東京大学に移籍した小島武仁教授は「社会実装に関わる経済学者も増えつつあるので、社会実装はこれからぐっと進む」と言う。小島教授が立ち上げ、センター長を務める東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)では経済学の社会実装を積極的に進めている。企業内での人事分野や「保育園の待機児童問題」に経済学の研究知見を生かしている。

 米国や海外では、経済学者を積極的に雇用する流れが加速している。小島教授は「日本の企業も、もっと経済学を学んだ人、特に最新の知見を身につけた若い人たちをどんどん雇ってほしい」と語る。

最後に

 「生活やビジネスには関わりのない学問」とみなされることも多い経済学。しかし海外ではGAFAをはじめ、経済学をビジネスに活用している企業は少なくない。これに比べ、日本企業の取り組みは遅れているものの、ビジネスに積極的に関わる経済学者は着実に増えている。長い年月をかけて蓄積された経済学の知見が、これからのビジネスや社会課題の解決にどのように貢献していくか今後も注目だ。

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