経済的な手段により国家や国民の安全を確保する経済安全保障。米中の対立を受けて、日本政府も経済安全保障推進法の可決や日米同盟3.0によって経済安全保障に力を入れている。今回はこれまでの記事を通して、経済安全保障の具体例や国民への影響に注目していく。

経済分野から国家・国民の安全を守る「経済安全保障」

 経済安全保障とは、国家や国民の安全を経済的手段によって実現する取り組みのこと。経済分野で米中が激しく対立する中で、日本も技術流出への対策をはじめ、サイバーセキュリティやサプライチェーン(供給網)の強化などさまざまな分野で取り組みが求められている。

 経済安全保障は岸田文雄政権にとっても重要な政策課題の1つで、2022年5月11日には企業の経済活動に対して国の関与を強める「経済安全保障推進法」を成立させた。だがこうした動きに対して、有識者や経済界などからは「経済安全保障の確保と自由な経済活動のバランスに十分に配慮」して「負担を最小限にしてほしい」との声も上がる。

 この記事では経済安全保障を巡る具体的な事例や、経済安全保障推進法が与える影響、日本の経済安全保障との関連が深い「日米同盟3.0」について過去記事から紹介していく。

地球の動脈、経済安保で追い風? NTTが日米最大の海底ケーブル

 通信インフラ、特にインターネット通信網は日本の経済安全保障にとって必要不可欠だ。近年のアジアと米国を結ぶ海底ケーブルプロジェクトは台湾やフィリピンを経由してシンガポールにつなぐものが多く、日本を経由するケーブルの敷設は政治的安定性の観点からも、日本経済の活性化の観点からも注目を集めている。

中国が複合機の規制強化へ 日本のハイテク技術に流出懸念

 中国政府が、政府調達品から外資を排除する動きを強めている。国産企業を優遇する一方、高度な技術を持つ日本企業に中国国内での設計開発や生産を要求することにより、技術移転を狙っているとの見方もある。安全保障と経済活動の狭間に置かれた各企業は、中国との結びつきを強めるか距離を置くかの二択を迫られる厳しい状況だ。

海外から農産物、買えないリスクを直視せよ 江藤拓元農相に聞く

 経済安全保障において重視すべき分野の1つがサプライチェーンだ。ウクライナ危機がもたらした国際的な食料供給網への不安感は、多くの農産品や海産物、木材などを輸入に頼る日本にとっても他人事ではない。元農林水産大臣の江藤拓議員も「飼料用トウモロコシの99%以上を海外に頼っているというのは、非常にリスクを抱えている状態」と警鐘を鳴らす。

経済安保推進法の「ここに注意」、あなたの会社にも影響が及ぶ

 さまざまな分野で経済安全保障への懸念が高まる中、22年5月に経済安保推進法が成立した。同法は「重要物資の安定的な供給の確保」「基幹インフラ役務の安定的な提供の確保」「先端的な重要技術の開発支援」「特許出願の非公開」に関する4つの制度を柱としており、民間企業への影響は少なくないとみられている。特に注目を集めているのは、「特定重要物資」を扱う事業者に要求される「供給確保計画」の立案だ。

日米「経済版2プラス2」始動 合意内容の裏を読み解く

 22年7月に開催された日米の外務・経済担当閣僚協議「経済版2プラス2」は、中国やロシアを念頭に日米の経済安全保障連携を強化する重要な枠組みの1つだ。経済版2プラス2で実質的に中身があるのは「半導体の日米協力」と「輸出管理での日米連携」の2点だという。

伝統的安全保障にとどまらない「日米同盟3.0」がスタート

 従来の日米同盟に加え、新たに経済版2プラス2の枠組みが発足したことで「日米同盟3.0」がスタートした。日本とアメリカは今後、伝統的安全保障に加えて経済安全保障でも密接な協力関係を構築していくことになる。経済安全保障の分野で日米の担当者が特に重視しているのは「守り」ではなく「ルールメーキング」だ。

最後に

 先端技術の流出防止やサイバーセキュリティ、サプライチェーンの強化など、日本にとって経済安全保障は国や国民の利益に直結する問題といえる。

 しかし同時に、経済安全保障には民間企業に対する国の干渉とも無縁ではない。国際情勢に引き続き注意を払いつつ、経済安全保障が生活やビジネスに与える影響についてしっかり考えていきたい。

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