無意味で、不必要で、有害な雇用形態である「ブルシット・ジョブ」。人類学者のデヴィッド・グレーバー氏によって提唱されたこの概念と同様の事象は、今日の多くの日本企業に見ることができる。今回はブルシット・ジョブから自らを守り、会社の生産性を向上させる方法について過去の記事を通して考えていく。
労働者にとって有害な「ブルシット・ジョブ」

ブルシット・ジョブとは、米国の人類学者デヴィッド・グレーバー教授が著書「ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論」で提唱した概念だ。グレーバー教授はその中で社会的仕事の半分以上は無意味と断じ、「完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態」をブルシット・ジョブと呼んだ。
実際、企業組織の中にはブルシット・ジョブと呼べるような場面が少なくない。特に近年の日本企業では「生産性の低さ」が課題となっているが、そうした現場ではマネジメントの問題により、業務がブルシット・ジョブになっていると考えることができる。
この記事では労働者がブルシット・ジョブ、つまり無駄な仕事から心身を守る方法や、マネジメントによって生産性を改善してきた事例を過去記事から紹介する。
「仕事が苦しいのは、自分が無能だから」と思うな
「意味のない仕事をやらされている」と感じているサラリーマンは多い。一方で、そうしたブルシット・ジョブから離れることもできないでいる。「社会からのモラル・ハラスメント」「見えない精神的暴力」を受けている状態ともいえるが、その根底にあるのはビジネスパーソン本人が持つ「罪悪感」だ。
「会社で息苦しい」と感じたら有給休暇を取ろう!
日本の企業にブルシット・ジョブが多い理由について、東京大学東洋文化研究所の安冨歩教授は「日本社会では『意味』のある仕事をしようとすると、お金が回ってこないようになる仕組みができている」と指摘する。その状態から本気で抜け出すには、腹をくくって「そこに居続ける」ことが必要だという。
在宅勤務の生産性は高い?低い? 新型コロナ下での意外な実態
コロナ禍で増えた在宅勤務をめぐり、「通勤時間を仕事に充てられる」から生産性が上がるのでは?と考える人は少なくない。しかし約8900人の個人を対象に行われた調査によると、在宅勤務の方が出社勤務よりも生産性の低い人は全体の70%以上という結果だった。在宅勤務をブルシット・ジョブにしないためには、企業や就労者によって異なる「職場と自宅での仕事の最適な組み合わせ」を模索していくことが重要だ。
生え抜き主義を廃止する
仕事の生産性を下げている要因はさまざまだが、中には「生え抜き社長の排除」によってこの課題に対処している企業もある。たとえば元ローソン会長の新浪剛史氏を招へいしたサントリーHD、伊藤忠商事や米ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人で活躍した松本晃氏を招いたカルビー、米ゼネラル・エレクトリックの藤森義明氏を社長に据えたLIXILなどだ。
着手する勇気
生産性を上げるためには、複数の会社にまたがる取り組みが必要なこともある。「カイゼン」で知られるトヨタ生産方式の導入では、ティア1と呼ばれる大手協力会社をカイゼンするために、ティア2と呼ばれる零細下請け工場からきめ細かなカイゼンを指導していくという。
会議の手間は半減 「100件営業」も達成
働き方改革の成功例として注目される日本電産。同社がブルシット・ジョブの解消に向けて行ったのが無駄な会議の削減だ。実際、わずか4か月の取り組みで156種類あった社内会議は89種類になり、回数は年間716回から440回に、月間の延べ開催時間は533時間から240時間になった。
これらは取り組みのごく一部にすぎないが、無駄をなくしたことで「実労働時間」が増え、営業回数も大幅に増えたという。
最後に
ブルシット・ジョブを自覚している会社や、ブルシット・ジョブに悩んでいる会社員は少なくない。
日本企業全体の生産性を上げて国際競争に勝ち抜くためにも、こうした「意味のない仕事」「有害な仕事」への対策は不可欠だ。労働者として自分のために何ができるか、あるいは経営者として会社のためにどうすべきか、先人の知恵を見習って模索していきたい。
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