覇権主義的な中国の活動を念頭に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指す枠組みとして生まれたクアッド。参加国は日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国だ。今回はクアッドの意義と各国の思惑、今後の展望についてこれまでの記事から振り返る。

自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す「クアッド」

 クアッド(Quad:Quadrilateral Security Dialogue)とは、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国で構成される外交・安全保障の協力体制のこと。「日米豪印戦略対話」とも呼ばれる。

 クアッドの目的は「自由で開かれたインド太平洋」を実現することだ。覇権主義的な行動が懸念される中国を念頭に、各国が外交や安全保障をはじめ、テロ対策、サイバーセキュリティー対策、インフラ整備、気候変動対策、そして新型コロナウイルス感染症対応まで幅広い分野で協力・協調していくとしている。

 クアッドはこれまで数度にわたる事務レベル会合や外相会合が行われてきたが、2021年3月と22年3月にはテレビ会議による、21年9月と22年5月には対面による首脳会合が行われた。

 本記事ではクアッドの背景にある各国の思惑や今後の見通しについて、これまでの記事から紹介していく。

安倍元首相が説く、台頭する中国にどう向き合うか

 クアッドの存在意義の1つが、安倍元首相が強調していた「経済、軍事の両面で台頭する中国」を念頭に置いた多国間の安全保障協力の強化だ。安倍氏は1962年の「キューバ危機」を例にとり、対立する国同士の「バランスを保つ努力が必要」と訴えた。

地政学における理想は19世紀の英国

 地政学・戦略学者の奥山真司氏は、クアッドを「海の勢力による海の連合」と表現する。

 クアッドに参加する4カ国はいずれも海に囲まれ、海をベースに外へ勢力を広げていく国だ。その「シーパワー」の連合勢力が、強力なランドパワーを持つ中国を包囲するというのがクアッドの構造だという。

クアッドでも鮮明な対中戦略強化 カギは日本の主体的取り組み

 22年5月24日に東京で開催されたクアッドの首脳会合。ロシアによるウクライナ侵攻が中国の台湾政策に与える影響を鑑み、「力による一方的な現状変更をいかなる地域でも許さない」という共通認識の確認と、経済協力の拡大について話し合われた。

世界最大の民主主義国インドが、ロシア制裁に慎重な理由

 クアッドの一角を占めるインドだが、ロシアに対する対応では他の参加国と一線を画している。ウクライナ侵攻に関する非難を避けているばかりか、ロシアに便宜を図ることで「西側諸国によるロシアに対する経済制裁の影響を最小限に抑えようと模索している」という。

 背景にあるのは、兵器も原子力発電所もロシアに依存しているインドの現状だ。

進化するクアッド、ロシアと中国の「名指し」より大事な成果

 一方で、クアッドではロシアや中国を直接名指しした批判は行われていない。これについては「ロシアと近い関係にあるインドのモディ首相に配慮したため」との声もあるが、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏はそれを否定する。

 むしろ「新型コロナウイルス感染症やインフラといった非政治的なテーマや、航行の自由や国際テロ問題、サイバーセキュリティー、重要技術など」の、対象とする内容が質・量ともに進化している証拠だという。

クアッドと新経済枠組み「IPEF」に漂う不安

 クアッドの狙いはあくまで「中国への対抗」だ。米中対立による分断という地政学的な状況を背景に、日米間の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)、クアッド、そして韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)を加えたインド太平洋経済枠組み(IPEF)はいずれも、経済安全保障のメニューを「中国への対抗」色の濃淡で使い分けているにすぎない。

 だが次の議長国となるオーストラリアは伝統的に対中融和を掲げる労働党が政権を担っており、どういう対中姿勢で臨んでいくか注目が集まっている。

最後に

 経済的にも軍事的にも力を蓄える中国に対して、「力による一方的な現状変更を許さない」ための国際的な枠組みとして生まれたクアッド。だが参加国の思惑や背景はそれぞれ微妙に異なり、クアッドが本来の目的を完遂できるかどうかは不透明だ。ロシアによるウクライナ侵攻に刺激を受けた中国の動きに対し、クアッドがどのように影響力を発揮するか見守っていきたい。

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