産業用機械で世界有数のシェアを誇る島津製作所。約150年前に創業した同社はこれまでにいくつもの「日本初」を生み出し、国内外に大きな影響を与えてきた。今回は島津製作所の創業の背景や近年の取り組みなどを中心に、過去記事をピックアップして紹介する。
産業機器のトップクラスメーカー「島津製作所」

島津製作所は国内有数の産業機械メーカーだ。同社では各種分析・計測機器から医用画像診断機器、産業機械、航空機器・海洋機器などを取り扱っており、特に半導体製造装置向け真空ポンプでは世界シェアの4割超を占めている。
島津製作所の創業は1875(明治8)年。創業者の島津源蔵は仏具の製造を家業としていたが、やがて科学技術分野の知見を身に付けて教育用理化学機器の製造を開始し島津製作所を立ち上げた。創業者の思いはその後も同社に受け継がれており、医療用X線装置、分光写真器、電子顕微鏡、ガスクロマトグラフ、生体磁気計測装置など日本初となるような製品を次々と開発した。加えて2002年には同社の田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞したことでも話題となった。
近年の新型コロナウイルス禍では、ウイルス検出試薬キットや全自動リアルタイムPCR検査装置の開発でも注目を集める島津製作所。この記事では同社の取り組み、同社が国内外に与えた影響について過去記事から振り返ってみる。
明治維新の“悲劇”が生んだ京都ノーベル賞企業
1875年に誕生した島津製作所。創業のきっかけとなったのは明治政府が出した神仏分離令と、その後の廃仏毀釈だ。創業者の島津源蔵の生家は仏具の製作を生業としていたが、多くの寺院が廃寺に追いやられたことで家業が危機的状況に陥ることになる。だが「今が産業構造の転換期」と悟った源蔵の嗅覚と探究心が、その後の「理化学機器メーカー」立ち上げの原動力となったという。
島津製作所、ヒットしたPCR試薬は長年「辛抱」の結晶
島津製作所が2020年4月に発売したPCR検査の試薬キットが注目を集めた。同社では独自の技術を用いて、通常なら3時間以上かかる検査時間を1時間程度にまで短縮することに成功。当初は月間10万検体分の生産を予定していたところ、需要の高まりを受けて30万検体分に増産するという。PCR検査キットは同社にとって「高収益事業」ではないというが、中長期的な経営判断と製品間の相乗効果がヒットへとつながった。
ノーベル賞田中氏「肩肘張らずに異分野に飛べ」
02年に「生体高分子の質量分析法のための穏和な脱着イオン化法」でノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏は島津製作所の従業員だ。数々のイノベーションを起こしてきた同氏は「今までにあった古い知識や技術でも、新しい捉え方ができればイノベーションにつながる」と語ったうえで、様々な視点を持つ人たちによる「異分野融合」が重要と強調する。
技術者はマインドを変え、無駄なプライドを捨てよ
田中氏はノーベル賞受賞後も「企業で働く者として『研究開発は最先端でなければならない』と思い込まないようにしてきた」という。最先端でないと恥ずかしいという技術者のプライドより、「時代のニーズに向き合えば、枯れた技術もイノベーションの糧になる」というのが同氏の考えだ。実際、島津製作所が20年に発売した低価格の全自動PCR検査装置も、社内にあった過去の技術を転用したものだという。
DMG森精機社長、「ものづくり」という言葉が嫌い 垂直統合こそ力
島津製作所の存在は、多くの企業経営者にとって刺激となってきた。DMG森精機の森雅彦社長は、今後の会社像を考えるうえでベンチマークにする企業の1つに島津製作所の名前を挙げて「創業から百何十年たっても立派に人が湧いてきている」と評価する。
稲盛和夫氏「従業員を鼓舞する壮大なビジョンを説き続ける」
京セラ創業者の故稲盛和夫氏も、島津製作所に刺激を受けていた経営者の一人だ。創業当時の京セラは従業員はわずか数十人、売り上げも年間1億円に満たない「ちっぽけな町工場」で、稲盛氏が当時の社員たちに常々語っていた「原町一、中京区一、京都一、日本一、世界一を目指す」には、同じ中京区にある「技術力の高さで世界的に評価が高い島津製作所」を抜かなければならなかったためだ。
最後に
明治時代から現代まで、様々なイノベーションを起こし続けてきた島津製作所。現代の経営者たちにも刺激を与えてきた同社の歩みは、世界トップシェアを誇る産業用機械や、新型コロナの検査薬・検査装置の開発などに生かされている。
島津製作所が21世紀に起こすイノベーションについても引き続き期待していきたい。
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