企業が企画・製造した商品について、小売店を通さずに消費者と直接取引するD2C(Direct to Consumer)。新しい小売りのトレンドとして、アパレル業界やメディア業界などを中心にさまざまな企業がD2Cの活用を始めている。今回はD2Cをテーマにした過去記事から、実際の事例をいくつかピックアップして紹介する。

国内外で広がる「D2C」という売り方

 D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、企業が企画・製造した商品について自ら消費者と直接取引する販売形式を指す言葉だ。企業が作る商品は一般に代理店や小売店を経由して販売されることが多いが、D2Cでは企業自身が運営するEC(電子商取引)サイトや直営店舗、さらにはSNS(交流サイト)などが利用される。また近年では百貨店などの店内にD2C向けの売り場を開設する例もあり、D2Cは今後ますます拡大していくと考えられている。

 D2Cで成功を収めている企業の大半はアパレル業界や化粧品業界に集中しているが、メディア業界でもD2Cの活用事例は多い。たとえば動画配信サービスの米ネットフリックス、ニュース配信の米NYタイムズや米ワシントン・ポストなどだ。この記事では国内外で広がるD2Cについて、過去記事から紹介していく。

世界で加速するD2C、日本で妨げるのはテレビ、コンビニ、チラシ

 メーカーと消費者が直接つながるD2Cは、「マーケティングの構造変革」として世界中で拡大中だ。特にD2Cが最初に注目された米国では、カミソリのブランドや損害保険などさまざまな業界で成功事例がある。

 これに対し、日本でのD2Cに対する注目度はいまひとつだ。その理由として挙げられるのが「テレビ、コンビニ、チラシ」の存在。米国に比べてはるかに国土が狭く、ことに都市部で密集して暮らす日本では、この3つで網羅できてしまう地域の割合が大きい。これらの媒体が持つ影響力が大きいため、他の国では採算が合わないはずの小売業態でも採算が合ってしまうのだという。

苦境のアパレル、次に来るのはD2C? コロナで勢い加速

 そんな日本でも、インターネットの普及と新型コロナウイルス感染症の影響によりD2Cに注目が集まり始めている。多くの人が外出を控えることでEC消費が急拡大し、結果としてD2Cを後押しする形となったためだ。

 特に「コロナで最も打撃を受けたカテゴリーの1つ」とされるアパレル業界にとって、D2Cは「救世主」になると期待を集めている。

創業9年「セールをしないアパレル」がコロナ下で好調な理由

 そんなアパレルブランドの1つが、2011年に創業した「kay me(ケイミー)」だ。アパレル業界全体が新型コロナにより大きなダメージを受ける中、同ブランドは「数十万人のオンライン会員とダイレクトにつながる」ことで売り上げが増加したという。

縦糸はM&A、横糸は若手への負託。丸井織物が紡ぐ経営革新

 石川県中能登町にある丸井織物は、日本の繊維産業の中でも独自の強みと地位を持つ生地メーカーだ。大手のSPA(製造小売り)やアパレルブランドを顧客に持つ同社だが、現在は受託生産だけでなく、消費者がデザインしたTシャツなどをオンラインで生産するD2Cにも乗り出している。

 「Up-T」と呼ばれるD2C事業の強みは、Tシャツ1枚1000円という価格と、デザイナーによる無料デザインや最短で翌日出荷という周辺サービス。Tシャツ以外にもバッグやスマートフォンのケース、ゴルフボールなど約70種類の商品を手がけており、注目を集めている。

新宿マルイ1階で青野社長「小売りの未来はここにある」

 こうしたD2Cの成功事例に、小売店舗である百貨店も注目し始めている。たとえば新宿マルイは本館1階に「売らない店舗」である「b8ta(ベータ)」を開業した。ベータではEC専門のメーカーやスタートアップ企業の製品100点余りを展示するが、その目的は「消費者に直接見てもらう」ことだ。

 丸井の青野真博社長によると「ベータはものを売って売り上げいくら、というビジネスではない」という。百貨店でありながら「売らない店舗」を置いたのは、D2Cが「小売りの未来」になりうるとの期待を感じているためだ。

ネットフリックスをディズニーが抜く日

 日本ではアパレル業界に話題が集まりがちなD2Cだが、海外では幅広いジャンルで活用されている。特に大きな成功例とされるのが、ネットフリックスや米ディズニー+(ディズニープラス)をはじめとする動画配信サービスだ。

 これらの企業では、緻密なデータ分析によってユーザーの嗜好をつかみ、D2Cのマーケティングに生かしている。それが消費者に受け入れられたことは、両社の本拠地である米国だけでなく、アジア(特にインド)で急成長を続けていることからも明らかだ。

最後に

 企業が消費者と直接取引を行うD2C。インターネットや携帯端末の普及に加え、新型コロナによる消費者行動の変化も、D2Cという新しい小売りのトレンドを加速させている。日本ではアパレル業界を中心に注目されるD2Cだが、メディア業界やその他の業界でも導入事例が増えている。ポストコロナの時代にD2Cがどのような成長を遂げていくか、一層注目していきたい。

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