量子力学の原理を利用して、圧倒的な計算能力を実現するとされる量子コンピューター。大手IT企業などを中心に開発競争が進む中、ビジネス分野での実用化に期待が寄せられている。今回は過去記事から、量子コンピューターの開発と活用についての話題を紹介していく。

開発競争と活用方法の模索が続く「量子コンピューター」

 量子コンピューターとは、量子力学の原理を利用することで従来のコンピューターより圧倒的な計算スピードを実現したコンピューターのことをいう。量子コンピューターの具体的な利用分野はまだはっきりしないものの、たとえばロジスティクスの最適化や金融のリスク管理、量子物理など膨大な計算を必要とする分野での活用を想定する声もある。

 量子コンピューターの研究が始まったのは1980年ごろのことだ。その後、1990年には複数の研究者たちがそれぞれ量子コンピューターに使うアルゴリズムを発表し、1998年には量子コンピューター向けのプログラミング言語「QCL」も公開された。

 量子コンピューターのハードウエア開発が進展したのは2000年代以降だ。現時点で稼働が発表されている量子コンピューターとしては、カナダD-Wave Systems社の「D-Wave」、米IBMの「Q System One」が挙げられる。他にも米グーグル、米インテル、米アマゾン、米アリババなどが研究開発競争に参入しているという。

 今回は量子コンピューターをめぐる過去記事から、主に「開発競争の動き」と「活用を模索する動き」の2点に注目していく。

グーグルが3種類目の量子コンピューター開発へ

 量子コンピューターの開発を進めるグーグル。同社が目指すのは、D-Wave Systemsの量子コンピューター、量子ゲート方式の量子コンピューターに続く「3種類目の量子コンピューター」だ。

 「Quantum Annealer v2.0」と名付けられた量子コンピューターの特徴は、「量子アニーリング方式」を採用していること。量子アニーリング方式は「組み合わせ最適化問題」を解くための専用装置とされ、実現すれば「より高度な人工知能を実現できる可能性がある」という。

「量子超越性」に突き進むグーグルの野望

 グーグルでは量子ゲート方式の量子コンピューターも開発している。同社ではこれをインターネット経由で利用できる「クラウドサービス」として提供したい考えだ。加えて2017年内にも「量子超越性(量子コンピューターが従来のコンピューターでは実現不可能な計算能力を備えていること)」を実証するとしており、実現すればコンピューター史にとって記念すべきマイルストーンになるという。

量子コンピューターのスタートアップが続々

 量子コンピューターの開発を進めているのは大手IT企業ばかりではない。たとえば米国メリーランド州のIonQ、米イェール大学の量子コンピューター研究者らが立ち上げたQuantum Circuits、IBMの元・量子コンピューター研究者が立ち上げた米Rigetti Computingなどは、いずれも量子コンピューターの開発を目的としたスタートアップ企業だ。

 これらの中にはグローバル企業やシリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル(VC)から多額の資金調達を行っている企業もあり、今後の開発競争の行方に注目が集まっている。

量子コンピューターを何に使うか、VWやGSが明かす

 量子コンピューターの「使い道」についても、さまざまな企業によって検討が進められている。

 ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が考えるのは「モビリティーサービス(タクシーのような自動車を使った都市交通サービス)」への活用だ。具体的には、同社が提供するオンデマンドのモビリティーサービスで、車両の移動ルートを高速で最適化できる可能性を検討しているという。

 米ゴールドマン・サックス(GS)が興味を示すのは「量子コンピューターを使った『モンテカルロシミュレーション』の高速化」だ。モンテカルロシミュレーションとは金融機関のリスク計算などに欠かせない存在だといい、現在は「膨大な規模のスーパーコンピューター」で計算を行っている。これを量子コンピューターによって高速化するのが狙いだ。

 欧州のエアバスは、量子コンピューターが「フォルトツリー解析(故障木分析)」の高速化に役立つことを期待している。フォルトツリーとは航空機の故障の原因などを特定する際に使用する分析手法のことで、規模の大きいフォルトツリーは「スーパーコンピューターであっても解くことは不可能」だという。

「クルマ以外」に自動車業界が注力するのは?

 日本企業で量子コンピューターに興味を示しているのはデンソーだ。同社では「渋滞解消などの実現(交通流の最適化)」に向けた量子コンピューターの活用について、豊田通商と共同で研究を進めている。

 デンソーと豊田通商による研究の舞台となったのはタイ。タクシーやトラックなど約13万台に取り付けられた専用車載器からデータを収集し、それをD-Wave Systemsの量子コンピューターで処理している。

 データ変換の手間やデータ遅延などさまざまな課題があるうえ、本格的な研究はこれからだ。だが関係者によると、すでにいくらかの感触はつかめているという。

最後に

 従来のコンピューターをはるかにしのぐ計算能力を持つ量子コンピューター。大手IT企業やベンチャー企業を中心に、開発競争が急ピッチで進められている。ビジネス分野における量子コンピューターの実用化はまだこれからだが、日本企業をはじめ、さまざまな企業が新たな活用方法を模索中だ。近い将来、量子コンピューターがビジネスシーンで活躍する日を楽しみにしていきたい。

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