人工的に培養した細胞を使い、失われた人体機能を回復させる再生医療。京都大学の山中伸弥教授が作製したiPS細胞は再生医療の研究を一気に加速させ、現代医学の水準を大きく引き上げている。今回は再生医療に関する過去記事から、再生医療の具体事例を振り返っていく。

iPS細胞によって加速した「再生医療」

 再生医療とは、人工的に培養した幹細胞などを使って損傷した臓器や組織を再生する医療のこと。従来の医学では不可能だった「失われた人体機能の回復」を実現する、夢のような医療技術だ。

 現在実用化が進んでいる再生医療では、まず皮膚などの体細胞に4種類の遺伝子を加え、どんな細胞にもなり得る万能細胞「iPS細胞」を作り出す。そのiPS細胞で人工的な臓器を構築し、患者の体内に移植するのが一般的な流れとなる。

 再生医療のカギとなるiPS細胞は、京都大学の山中教授によって作製された。それ以前は「ES細胞」と呼ばれる万能細胞が主に研究されていたが、ヒトの受精卵をベースとするES細胞には拒絶反応のリスクが伴い、また倫理上の問題もある。これに対し皮膚など患者自身の体細胞を使うiPS細胞にはこうした問題が存在しないのがメリットだ。

 iPS細胞の登場により、一気に実用化が進められた再生医療。この記事では再生医療のさまざまな事例について、過去記事から紹介する。

臓器や組織を作り替えて治す

 再生医療の本質は「本人が自分を治す」こと。そんな夢のような医療を現実に近づけているのが、山中教授が開発したiPS細胞だ。これを受けて全国の研究機関や医療機器メーカーなどでは、(2015年時点で)すでにパーキンソン病や脳梗塞、筋ジストロフィー、重症心不全などの治療に向けた研究が始まっている。

“心筋シート”使う心臓病治療が始まった

 iPS細胞の実用化が始まった。脚の筋肉細胞から培養した細胞シートを心臓の筋肉に貼り付ける「筋芽細胞シート」移植手術が成功し、2016年には健康保険が適用される心不全治療用の再生医療製品「ハートシート」が誕生した。

 欧米では死因第1位、日本でもがんに次ぐ死因第2位の病とされる心疾患。最新の再生医療技術が、より多くの命を救うことになると期待を集めるようになった。

フサフサの髪を取り戻す、毛髪再生医療を実用化

 成人男性の3人に1人は壮年性脱毛症(生え際や頭頂部の毛髪が産毛のように細く柔らかくなり、地肌が見える状態)に悩まされているという。その悩みを解決するカギとなるのも、再生医療だ。

 2017年11月、資生堂と東京医科大学などのグループや、理化学研究所のグループが毛髪再生医療の研究に乗り出した。頭皮の内側で毛髪の工場として働く「毛包」の成長に関わる細胞を取り出して体外で増やし、体内に戻すという考え方だ。

モハメド・アリも苦しんだ難病にiPS細胞で挑む

 iPS細胞は、これまで根本的な治療が困難とされていたパーキンソン病の治療にも役立つと期待されている。かつては発症から10年で「寝たきり」になるとされたパーキンソン病。2018年当時、病気の進行を食い止める治療薬は開発されていたが、完治できる根本的な治療法は存在していない。

 パーキンソン病発症の鍵を握るのは脳内で作られる「ドーパミン」と呼ばれる神経伝達物質。「ドーパミン神経細胞が減少し、作られるドーパミンが少なくなる」ことで発症する。このためiPS細胞によってドーパミン神経細胞を作り、それを移植できれば根本治療できる可能性があるという。

脳の再生へ、パーキンソン病以外の治療にも道

 2018年8月、iPS細胞を使った世界初のパーキンソン病の臨床試験がスタートする。今後2年間の経過観察で、移植細胞の状態や改善効果などを確認していく予定だ。

 京都大学iPS細胞研究所の高橋淳教授によると、今後の課題は安全面やコストの問題。これらを確認することで今回の治療法が他の脳の病気にも応用できる可能性が広がりそうだという。

バイオ3Dプリンターは生体内をどれだけ再現できるのか

 再生医療で注目されているテクノロジーのひとつに、「バイオ3Dプリンター」がある。バイオ3Dプリンターとは「細胞を使って臓器などの立体的な構造の再現」をする機器だ。2019年時点では、富士フイルムなどが出資するバイオベンチャーのサイフューズ、そしてリコーなどの企業が、製品化に取り組んでいるという。

 研究途上にあるバイオ3Dプリンターだが、今後の研究・開発次第では、再生医療や創薬研究の加速につながると期待されている。

武田薬品と山中教授のタッグから新会社 iPS細胞実用化に挑む

 2021年、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業の共同研究に基づく新会社「オリヅルセラピューティクス」が誕生した。これまでCiRAと武田薬品が共同で取り組んできたプロジェクトの成果を生かし、再生医療の事業化を目指すという。

 2021年8月時点ですでに60億円の資金調達を達成するなど、オリヅルは投資家からも大いに注目を集めている。「2026年には臨床試験のデータを取得して株式上場を目指す」と抱負を語る野中健史社長だが、iPS細胞は未解明な部分が多く、同社の成功にはいくつもの課題がありそうだ。

バイオ産業、2030年の市場92兆円の政府試算は旗印か画餅か

 2021年1月、政府の統合イノベーション戦略推進会議が「バイオ戦略2020(市場領域施策確定版)」を決定した。「バイオ医薬品・再生医療」など9領域を重点項目に定め、2030年にはバイオ市場全体として総額92兆円の規模に育てていきたい考えだ。

最後に

 人体のどんな細胞にもなり得る万能細胞を利用して、失われた人体機能を回復させる再生医療。かねて夢の医療技術とされてきたが、iPS細胞によって実用化へと大きく近づいている。iPS細胞による再生医療は、死因の上位を占める心疾患や難病の治療にも効果が期待される。今後の臨床試験の行方や実用化に向けた取り組みに、大いに期待したい。

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