「フェムテック」とは、テクノロジーの力で女性の健康課題を解決する製品やサービスのこと。かつては国内外のベンチャー企業が中心だったフェムテック市場は、いまや国や大手企業も注目する成長分野になりつつある。今回はフェムテックをテーマとした過去記事から、具体的な事例に注目する。

官民が注目する「フェムテック」

 「フェムテック(FemTech)」とは女性特有の健康課題を解決するテクノロジーや、それを使った製品・サービスのことだ。女性を意味するフィメール(Female)とテクノロジー(Technology)を組み合わせてつくられた。

 製品やサービスの例として挙げられるのは、生理痛を改善する器具や月経周期を予測するアプリなどだ。従来こうした課題には光が当たりにくかったが、テクノロジーの発達や女性起業家の増加などが後押しし、近年ではベンチャー企業だけでなく大手企業もフェムテックに注目している。政府(経済産業省)も補助金を拠出する実証実験を開始するなど、今後フェムテック市場はますます発展すると考えられる。

負担は年間7000億円? 女性の悩み解決「フェムテック」とは

 女性の体の悩みに沿った製品は以前から存在している。例えば生理用ナプキンやサプリメントなどだ。一方、ここ数年発展が続くフェムテックは、より新しい技術を活用することで女性に寄り添うきめ細かなサービスを特徴としている。スマートフォンアプリを使った「妊活やPMS(月経前症候群)の相談ができるサービス」や「生理用ナプキンを使わない吸収型のサニタリーショーツ」などがその一例だ。

 経済産業省によると「生理に伴う体調不良による労働損失や医薬品・通院にかかる費用」などの負担は、国内だけで年間約7000億円に上るという。こうした課題の解決を目指すフェムテック市場は、今後ますます発展が期待される要注目分野だ。

「生理にサヨナラして分かった男女の違い」議連会長の野田聖子氏

 2020年10月、自民党内で「フェムテック振興議員連盟(フェムテック議連)」が発足した。会長に就任したのは野田聖子氏。フェムテックに注目した理由の一つは「これからの日本は新しい需要を起こさなきゃいけない。その一つのアイコンになる」と考えたことだという。

 フェムテック議連の目標は「まずは『フェムテック』という言葉を一般化させ、女性が自らの意思で健康や体を守れる製品があると知ってもらうこと」だ。「現在は変なところに規制があり、守られるべきところに規制がない。その不安定な状況を変えたいですね」と野田氏は語る。

生理データに子宮内善玉菌 常識覆すフェムテックが女性の味方に

 注目を集めるフェムテックの一つが、スマホアプリ「ルナルナ」だ。運営するのはヘルスケア企業のエムティーアイ。20年近くにわたって蓄積してきた月経周期などのユーザーデータを分析し、独自のロジックで女性の悩みに応えている。

 一方、医療スタートアップのバリノス(東京・江東)が提供するのは「子宮内の善玉菌を検査するサービス」だ。全国約100の医療機関と協力して子宮内の善玉菌と悪玉菌の比率などを割り出し、「妊活、出産、婦人科の受診」などに活用してもらうのが狙いだという。

フェムテックで「前例なし」に風穴を アフリカ育ち起業家の挑戦

 女性向けヘルスケア製品の販売を手がけるフェルマータ(東京・品川)。共同創業者の杉本亜美奈氏は、「フェムテックの制度がないのであれば、今から作っていけばいい」と精力的に活動を続ける人物だ。

 杉本氏は父親の仕事の関係でタンザニアに住み、過酷な医療現場と貧富の差による医療水準の格差を目の当たりにしてきた。その後、英国の学校に進学し、「国籍やバックグラウンドが多様な学生」の中で「自分たちでルールや制度、仕組みを作っていく」経験をしたことが現在の活動につながっている。

 「結婚や古い伝統などにとらわれずに、女性が自分のために向き合う製品やサービス、テクノロジーを日本の女性にも届ける必要がある」と語る杉本氏。世界のフェムテック関連企業約200社からフェムテック製品を取り寄せると同時に、厚生労働省やフェムテック議連にも掛け合いながら、日本での市場を広げようとしている。

眠れる市場のフェムテック、「おじさんの関門」越えられるか

 LINE上で体調を共有する「wakarimi(ワカリミ)」というサービスがある。更年期特有の症状や、それによる夫婦間のけんかに悩む更年期世代の夫婦をターゲットにしたものだ。

 事業を立ち上げた高本玲代氏によると、起業のきっかけになったのは女性の起業家に特化した「Your」というインキュベーションだ。

 一般的な創業支援では「投資家や経営層など意思決定をする人に男性が多く、せっかくの新規事業の芽をおじさんが『分からない』と言って、つぶしてしまう」ことが多いと語る高木氏。「Your」のような事業支援の仕組みは、フェムテック市場にとても貴重な存在だ。

帝人がフェムテックに本格参入、迫る「崖」を回避できるか

 大手繊維メーカー帝人は、ヘルスケア事業も手掛けている。同社ではフェムテック市場向けに新ブランド「melito」を立ち上げ、女性をターゲットにした善玉菌サプリメントの販売を開始する。

 帝人の調査によると、女性特有の健康課題に対応した、善玉菌を含んだプロバイオティクス食品の国内市場規模は115億円に上るという。新ブランドによってこの規模をさらに拡大していきたい考えだ。

最後に

 女性の体の悩みをテクノロジーの力で解決するフェムテック。スタートアップ企業から大企業、そして国をも巻き込みながら、市場の拡大が続いている。とはいえ日本では、フェムテック関連の法制度整備は途上だ。フェムテック市場の拡大発展に向けた官民挙げての活動が、今後ますます注目される。

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