MBA(経営学修士)とは、ビジネススクールと呼ばれる大学院を修了することで与えられる学位のこと。MBA保有者は世界中のビジネス現場で活躍しているが、一方でカリキュラムには抽象論が多く「役に立たない」との批判もある。今回はMBAに対する賛否やMBAの有用性について、過去記事から振り返ってみる。

経営のスキルを教える「MBA」プログラム

 MBAはMaster of Business Administrationの略称で、経営学の大学院修士課程を修了することで授与される学位(経営学修士号、経営管理修士号)のことだ。対象となる大学院は一般にビジネススクールと呼ばれ、ハーバード・ビジネス・スクールを筆頭に世界中に広まっている。

 MBAプログラムは、主に社会人を対象としている。カリキュラムの中には一般的な大学で教える経営学の内容に加え、事業戦略、マネジメント、マーケティング、財務・会計、ロジカルシンキング、問題解決など、経営実務に直結するスキルが含まれるのが特徴だ。

 一方でMBAプログラムは一般に高額とされ、名門校にもなると2年間で8万ドル(約880万円)もの学費がかかることもある。こうしたことから多くの日本のビジネスパーソンにとっては入学のハードルが高いと感じられ、また一部のカリキュラムについて「抽象論が多く実務に直結しない」と批判されることも少なくない。

 この記事ではMBAに対する批判的な意見や肯定的な証言などについて、過去記事から紹介する。

ミンツバーグ教授が語る「管理職に最低限必要なもの」

 戦略組織論の専門家・カナダ・マギル大学デソーテル経営大学院のヘンリー・ミンツバーグ教授は、MBAに否定的な立場だ。「一般的なMBAでは科学的根拠は得られるが、経験は得られない」からだという。管理職に必要なのは製品やサービス、従業員、企業文化を含め「事業を熟知している」ことで、それは松下幸之助氏のような(MBAが生まれる前の)かつての日本の経営者が持っていた能力だと、ミンツバーグ教授は語る。

なぜ「MBAは役に立たない」のか

 ミンツバーグ教授は『MBAが会社を滅ぼす』(池村千秋訳、日経BP)という本を執筆している。「会社を滅ぼす」根拠は「MBAはマネジメントに向いていない」というものだ。

 しかしミンツバーグ教授が批判するMBAはあくまで「典型的な米国流のMBAプログラム」のこと。米国の一般的なMBAでは、受講生は会社を辞め、組織から離れて2年間を過ごす。このように現場から切り離された状態で経営学を学んでも、組織のマネジメントはできないというのが教授の考えだ。

MBAの本は、なぜ進歩がないのか

 MBAプログラムの形式ではなく「MBAで使われる教科書」に問題があると主張する人もいる。自らビジネススクールで教壇に立つ、早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄教授によると、「学術分野としての世界の経営学はこの20年で目覚ましい進歩をとげてきた」のに対し、MBAの教科書はいまだに米ハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授の生み出した(1980〜90年代の)理論が中心だという。

 その理由について入山氏は「『HBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)に論文を書いても業績にならない』という米経営学界の実情と直結している」と指摘する。経営戦略論は研究者の業績に結びつかないため、最新の研究をMBAで教える分析ツールに落とし込もうとする意欲が失われているというのだ。

豊田章男氏を育てた経営の羅針盤

 日本では従来、MBAに対する評価が低いという。その理由として挙げられるのが「企業側から見ると何のメリットがあるのか曖昧」という点だ。学費や生活費などで多額の費用をかけてMBAを取得しても、それを評価する仕組みや制度を持った日本企業は少ない。それどころか、MBAを目指す社員が「会社を辞めるつもりではないか」と白い目で見られてしまう。

 だが実業家の山田司朗氏によると、MBAの意義は「立ち止まって基礎から体系的に経営学を学ぶ」ことだ。仕事に追われる経営者はどうしてもアウトプットばかりに偏ってしまうため、長期間にわたり高い成果を出し続けるためにも、MBAで「マーケティングや人事など直接仕事とは関係ないことも学ぶ必要がある」という。

アメリカ留学で身についたのは、理不尽に耐える精神力だった

 「日本企業は、MBAの使い方がかなり下手」と語るのは、経営コンサルタントの岡俊子氏。岡氏自身も米ペンシルベニア大学ウォートンスクールを修了したMBAホルダーだが、同期の日本人の中には帰国後「『MBAのあかを落として来い!』と、地方支店でドブ板営業をさせられた」人もいたという。

 MBAホルダーが冷遇された理由は、組織として「社員を平等に扱っていることを皆にアピールする」ことを重視したためだ。しかしそのような会社も、今では「グローバル人材」の育成に苦労している。「あの時代に、優秀な人材の牙を抜き、潰してこなければ、今になって右往左往する必要はなかった」と岡氏は指摘する。

邦銀で女性初、社長になって見えてきたこと

 MBAの有効性を体感しているのは、2014年に48歳の若さで野村信託銀行社長に就任した鳥海智絵氏。新人時代は「ゴミを拾ってはファイリングしていました」という鳥海氏だが、米スタンフォード大学経営大学院MBAコースで学んだ「ものの考え方」がトップとしての経営判断に役に立つことに気付いたという。

 MBAプログラムを通して「自分を相対化する視点」を学んだ鳥海氏。18年には野村証券営業部門企画統括専務執行役員に就任し、同社の女性管理職をけん引する存在となっている。

最後に

 多くの経営者が学んできたビジネススクール。プログラムを修了した人にはMBAが授与されるが、この学位の意味や有効性については賛否両論がある。日本企業は従来よりMBAに否定的な立場が多いというが、「グローバル人材」の需要が増えるにつれ、そうした状況は変わりつつある。これからの日本企業で、MBAホルダーがどのように活躍していくか注目していきたい。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら

この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。