汎用素材の塩化ビニール樹脂から先端素材のレア・アースマグネットまで取り扱う信越化学工業。幅広い事業セグメントにより経営基盤が安定している同社は、化学メーカーとして国内最大の時価総額と営業利益を誇る。今回は信越化学の強みについて過去の記事から紹介する。
汎用素材から先端素材まで手掛ける「信越化学」

信越化学工業は日本最大の化学メーカー。社会基盤を支える塩化ビニール樹脂をはじめ、様々な分野で広く使われるシリコーン樹脂、電子材料のシリコンウエハーやレア・アースマグネット、そして各種素材の加工やプラントの設計・建設などを主な事業内容としている。
信越化学は信越窒素肥料株式会社として1926年(大正15年)に創業し、カーバイドや石灰窒素の製造を手掛けていた。太平洋戦争後、高度経済成長期に塩化ビニール樹脂の製造で事業を拡大し、その後、電子材料など取り扱い製品を拡大させていく。化学メーカーとして、2022年時点の時価総額と営業利益ともに国内最大だ。
信越化学の強みはバランスの良い事業セグメントにある。塩化ビニール樹脂やシリコーンはあらゆる分野で広く利用される汎用素材で、一方のシリコンウエハーやレア・アースマグネットは半導体や環境対応車用モーターといった先端技術分野で使用される。これらの組み合わせによって生まれる「変化に強い経営基盤」が同社の強みだ。
この記事では信越化学をテーマにした過去記事をピックアップし、紹介していく。
ローテクが日本を救う
木造で高さ350メートルの超高層ビルを建てるという、驚きの計画を発表した住友林業。それを支える技術の1つが、信越化学と共同開発した「特殊なシリコンを配合した水性塗料」だ。「1回の塗布で、木の寿命が数十年持つ」「屋外に露出しない木材は200年以上持つ」とされる特殊塗料を実現できた背景には、シリコーンの製造において信越化学が持つ、世界トップクラスのシェアと技術力がある。
化学大手の電池材料、「半導体の次」になるか
新型コロナウイルス禍による景気後退の影響を受けて、多くの化学メーカーが業績を悪化させる中、下支えしているのが半導体需要だ。信越化学の半導体向けシリコン事業の売上高は、コロナによる下落を最小限にとどめ前年同期比3.8%減の1891億円、営業利益は755億円と1.4%増えた。
感染拡大防止を目的とした移動制限や出社制限でリモートワークが普及したことで、データセンターの増設や高速通信規格「5G」関連のインフラ整備が本格化。さらに次の分野としてリチウムイオン電池向け材料に期待が集まっている。
日本の「宝」どう守る、世界首位企業が挑む「ムーアの法則」の限界
「産業のコメ」と呼ばれてきた半導体。米中の対立や新型コロナ、気候変動に揺れる世界経済の中で、半導体の重要度は「国際戦略物資」と呼ばれるまでに高まってる。半導体の研究で世界をリードするのは台湾積体電路製造(TSMC)、米インテル、韓国サムスン電子、米IBMだ。一方、日本の半導体産業は衰退したものの、製造装置や材料の分野には世界トップクラス企業がきら星のごとく存在する。
例えば半導体の基幹素材となるシリコンウエハーの製造を手掛ける信越化学の場合、世界における市場シェアは世界一で「3割」に達するという。
三井・三菱が一歩リード? 財閥系化学、原材料高の価格転嫁なるか
22年5月、住友・三井・三菱の財閥系化学大手3社は好調だった22年3月期の決算発表をした。各社とも石油化学事業を中心に、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ製品需要の回復に支えられた。一方で、23年3月期は最終減益になるとしている。原油をはじめとする原材料価格の上昇が収益貢献した石化事業に悪影響を及ぼすというのが3社の見立てだ。
一方、半導体基板の材料であるシリコンウエハーを扱う信越化学は好調だ。顧客との長期契約が基本となるため取引数量や価格が原材料価格の変動に左右されにくく、汎用性の高い塩化ビニール樹脂でも世界トップシェアを誇るためだ。
「失われた30年」に輝いた経営者、首位は信越化学の金川氏
信越化学の社長を約20年にわたって務めた金川千尋氏は、同社を国内ナンバーワンの化学メーカーに育て上げた立役者だ。日経ビジネス22年1月24日号の特集「『失われた30年』に輝いた 中興の祖ランキング」では、300人強の経営者の中でトップに輝いた。
1990年に同社社長に就任した金川氏は、不採算部門を整理する一方で、汎用品で付加価値が付けにくい塩化ビニール樹脂事業の拡大を決断し、さらにシリコンウエハー事業にも注力。その結果、両分野で世界最大手となった。現在の信越化学は金川氏就任時の3倍を超える1兆4969億円(2021年3月期)で、株式時価総額は約22倍の約8兆2000億円(同)となっている。
まとめ
国内はもとより世界的にも高いシェアを誇る信越化学。特に建材にも使われる塩化ビニール樹脂と半導体製造に欠かせないシリコンウエハーでは世界トップシェアを誇っている。コロナ禍であらゆる産業がダメージを受ける中、業績が堅調な同社は日本経済全体にとって貴重な存在だ。今後もその勢いを継続できるのか、同社の経営に注目したい。
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